□日はまた昇る11
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下忍の頃から頻繁に集っていた場所がある。
きっかけは何だったか。
それすらももう遠い思い出だ。
気付けばいつの間にかそこが自分達の溜り場になっていた。
あいつが病院にいる事が多かったからでもあるし、自分自身もその場所を気に入っていたから。
昼寝をしたりとか、ただボンヤリと空を見上げるとか。
そうした事をするには正に持って来いな場所だった。
何よりそこから見える景色は一番のお気に入りで。
彼とその景色を眺めながら何気ない話をするのが一番好きだった。
それは勿論今も変わらない。

+ + +

「・・・ゆっくり、ゆっくりな。」
「悪い・・・。」
「気にすんな。」

薄暗い病院の階段に自分達の足音が響く。
隣からは相方の微かな息遣いも聞こえてくる。
そして、微かではあるが確かな体温も。
そんな何気ない事でさえ、今の自分には掛け替えのない物に思えた。
ひたすら続く階段をダルイはシーと共に上っていた。
相方の体がふらつかないよう、自分の太い腕を彼の肩に回してしっかりと支え込みながら歩いて行く。
階段はさらに上へ上へと続いており、終わりはまだ見えない。
まだまだ上らなくてはいけないだろう。
シーが息を切らし始める。
立ち止まって彼の呼吸が整うのを待った。
筋肉の衰えた薄い体は、階段を上るだけでも酷い負担を伴うらしい。
無理もない。
あの地獄のような場所から戻って来た後も、彼は意識の中をずっと彷徨っていたのだから。
薬の影響でまだ思うように体を動かす事も出来ないのだろう。
肩で苦しげに息をする相方の様子に、心配になって声を掛けた。

「・・・平気か?」
「ああ・・・、お前が支えてくれるから問題ない。」
「足元、気を付けろよ。躓くから。」
「分かってる。」

再び肩を組んで歩き出す。
一段一段階段を上る度に、カシャンカシャンと点滴台が音を立てた。
シーが片手で点滴台を掴んで運んでいる為だ。
まだ十分に回復し切れていない為、点滴を外す事は出来ない。
本来なら治療室にいさせるべきなのだが。
それでも相方はそれを断固として嫌がった。
日の光が見たい、外の空気を吸いたい。
「息が詰まりそうなんだ」と彼は訴えてきた。
懇願するかのようにそう繰り返すシーの頼みを聞かない訳にはいかなかった。
何故そこまで彼が外に出たがっているのかは何となく想像がつく。
長期に渡って閉塞された薄暗い場所に閉じ込められていたのだ。
今いる場所がいくら里の病院の一室とは言え、密室である事に変わりはない。
相方によると治療室にいるとどうしても呼吸が荒くなってくるらしい。
心は立ち直っていても体が生々しく覚えているのだろう。

何とかこちらの肩に掴まりながらシーは階段を上っていた。
長い間伏せっていたせいで体力が随分減ったらしい。
体付きもかなり細くなっているのが分かる。
それでも相方は懸命に上へ上へと向かおうとしていた。
黒い瞳は一心に上を見つめている。
そこには力強い意志が宿っていた。
向かう場所はただ一つ。
自分達二人にとっては大切な場所だ。

三つ目の踊り場に辿り着いた時、シーの体がぐらりとよろけた。

「シー!」

膝から崩れ落ちそうになる相方の体を寸での所で両手で受け止める。
なるべく体に障らないようにゆっくりとその場で膝を屈めた。
思わず彼に呼び掛ける。

「大丈夫か。」
「くそ・・脚が、ふらつきやがる・・・。」
「無理し過ぎだ。やっぱ戻った方が、」

シーの白い手がダルイの腕に触れた。
訴えるように彼がこちらを見つめてくる。
薄い唇を動かして彼が呟く。

「・・いや、いい。ここまで来て引き返す馬鹿がいるか。」

言葉とは裏腹に声は苦しげだった。
一旦休んだ方が良さそうだ。
そっとシーの薄い体を壁に持たせ掛け、踊り場に横たえさせる。
顔を覗き込むと白い肌は青白い。
やはり外に出したのは良くなかったようだ。
まだチャクラも十分に残っていない体はすぐに疲れてしまうらしい。
体がシーの感知能力を麻痺させた事は正しかったのだ。
ただでさえ弱っている体を周囲のチャクラや外部の刺激に当たらせては、今の相方にとっては毒にしかならないだろう。
再び彼が小さく呟く。

「・・里の景色が見たいんだ。戻って来てから、まだ一度も見れてない・・・。」
「・・・。」
「あの治療室にいると、手術室を思い出す。あそこでされた事を嫌でも思い出しちまう・・・。」
「・・シー・・・。」

弱々しく相方が笑う。

「連れてってくれないか。この目で見てみたい。自分は里に戻って来れたのだと、身をもって確かめたいんだ。」

黙ってダルイは相方を見つめた。
シーを連れ出してやりたいのは確かだ。
暖かな日の光を、里を見せてやりたい。
が、今のシーにはまだそれだけの体力は残っていないに違いない。
目覚めて一週間が経っているとは言え、まだ回復途中なのだから。
それでもこの親友の願いは叶えてやりたかった。
滅多に頼み事をしないシーがここまで切望しているのだ。
自分は出来るだけの事をしてやりたい。
━・・だりぃが、仕方ねえな。

「ちっと失礼。」
「?、な、うわ・・・っ。」

シーの背中に手を添え、膝の下にもう片方の手を差し入れる。
そのままひょいと彼の体を抱き上げ、向かい合わせになるように相手の腕をこちらの肩に回させた。
ある程度体の重みは戻っているものの、それでもまだ子供のように軽かった。
子供を抱えるように彼を抱き抱えた。
空いた手で点滴台を掴み、ゆっくりと歩き出す。
小さく相方に囁きかけた。

「手、しっかり掴まっとけよ。」
「・・・すまない。」
「謝んなって。これ位させてくれ。」

今は俺がお前の足になってやるから。
そう囁けば彼はただ小さく頷いた。
よく見ると耳が赤い。
内心ではかなり照れ臭がっているのだろう。
━・・・ったく、妙な所で初心なこって。
小さく笑みをこぼし、ダルイは歩き始めた。
ゆっくり足を踏み出しさらに上を目指していく。
相方の薄い体をしっかりと引き寄せ抱え込み、離さないようにした。
残る階段はあと僅かだ。
十段、九段、八段、七段。
だんだん病院の屋上へ繋がるドアが近付いてくる。
四段、三段、二段。
そして。

「――――・・・着いた。」
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