□日はまた昇る10
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眩しい。
重い目蓋をゆっくりと開く。
いつの間にか部屋は明るくなっていた。
窓から陽光がカーテンを透かして降り注いでくる。
自分の顔に片手を翳し、タコまみれの褐色の手を眺めた。
再び窓に目を移す。
━・・・朝、か。
ボンヤリと天井を見つめてダルイは心の中で呟いた。
日の昇りから見てもう正午も近いに違いない。
どうやら珍しく寝坊してしまったらしい。
任務から帰った後、寝台に身を投げ出してそのまま寝入ってしまったのだった。
装備を解く事すら億劫だった気がする。
別に今日は大した仕事は入っていない為、何時に起きようが咎められる事はないのだが。
それにまだ眠たい。
もう少し横になろうと決めた。
目を閉じ、ついさっきまで見ていた夢を思い出そうとする。
━・・・えらい懐かしい夢だった、気がすんな。
何の夢だったのかは朧気にしか思い出せない。
唯一脳裏に残っているのは黒い着流し姿の、今よりも十歳程若い相方の姿。
人形のようにか細い体躯をした少年の姿だった。
今となっては随分懐かしい記憶だ。
今でこそ成人男性に相応の体付きをしているが、中忍の頃のシーが本当に華奢な体型をしていた事を思い出した。
それでよく周りにからかわれていた事も。
━・・・何で、そんな昔の夢を見たんだか。
ごろりと寝返りを打つ。
体に掛けたシーツを引き寄せ、顔を押し付けた。
首を回して寝台の空いたスペースを見つめる。
もちろんそこには誰もいない。
ぽっかりと空いた、一人分の空間。
何故かその光景に酷く既視感を覚えてしまう。
一体何故なのか。
━・・・あ。
頭の奥で記憶が弾ける。思い出した。
最後に相方と共にこの部屋で一夜を過ごした日の事だ。
それはちょうど彼があの潜入任務に向かう前日の事だった。
今でも昨日の事のように思い出せる。

『温もりが欲しい。』

いきなり訪ねて来るなり開口一番にシーはそう告げたのだ。
向こうから行為を求められる事は滅多にない事だった。
が、あの時のシーはかなり精神的に不安定だったのかも知れない。
勿論ダルイはその要望を断りはしなかった。
誘われるままにシーと寝て、彼に求められるままに快楽を与えた。
が、相方は相当人肌に飢えていたらしい。
早く早く、もっともっとと、温もりを求める子供のようにダルイに縋り付いてきた。
白い腕を伸ばしてこちらにしがみ付き、突き上げられるままに喘いでは啼いていた。
何度もこちらの名を呼んでは自分から腰を振っていた。
まるでダルイの存在を、チャクラを確かめるかのように。
まるでこれが最後の行為になるとでも言うかのように。
何かに怯えるようにひたすら夢中にこちらの熱を貪っていたように思う。
惜しげもなく晒された相方の嬌態は息を飲む程にダルイの劣情を煽るものだった。
いつになく積極的に、激しく熱を求める彼の姿を前にすれば自分も行為に溺れるしかなく。
何度目かの射精を迎えると共にシーは意識を手放し、そのまま眠りに落ちていった。
ダルイ自身も彼の温もりを感じながら引きずり込まれるように寝入った。
その次の日に目覚めた時には、ベッドの隣はもぬけの殻になっていた。
それはあの夢と全く同じ光景だった。

あの時は何の疑問もなく家に帰ったのだろうと考えていた。
だが今なら分かる。
彼はそのまま任務に向かったのだ。
━・・・初めっから、あいつは死にに行くつもりだったのか・・・。
改めて自分の鈍さを呪った。
何も知らなかった。
本当に自分は何も知らなかったのだ。
あの時あれ程までにダルイを求めてきたのは、自分の行く末が分かっていたからだろう。
最後に温もりを覚えていたかったのかも知れない。
無謀な任務だと言う事は彼自身も気付いていたに違いない。
最初から彼は覚悟を決めていたのだ。
里の為に死ぬ覚悟を。
自分の相方には二度と会えないだろうと言う覚悟を。
どんな心境だったのだろう。
「行きたい」と思っていなかったに違いない。
むしろ行きたくなかった筈だ。
が、あの男にとって里の命令は絶対なのだ。
自分一人の個人的な感情で逆らう事は許されない。
それが彼の考えなのだ。
誰にも打ち明けずに一人あの場所へ向かったのだろう。
それだけの覚悟を相方は下していたのだ。
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