□日はまた昇る9
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暗い。
温度のない水の中にいるような、奇妙な感覚だった。
靄が掛かったようなまどろみの中でボンヤリと目を開けた。
何も見えない。
何も感じない。
そもそも自分が今どこにいるのかすら分からなかった。
自分は一体どうなったのだろう。
助かったのか。
それともあのまま死んでしまったのか。
最後に見たのは悲痛そうに表情を歪めたダルイの顔だった。
見間違いではない。
あの時しっかりと感じたのだ。
彼の穏やかで温かいチャクラを。
いつも傍で自分が感じていた相方のチャクラを。

少しずつ記憶が戻って来る。
そうだ、自分はずっと待っていたのだ。
待って待って待ち続けて。
暗い部屋の中で毎日のように日付を数えた。
与えられる暴行にも耐え続けた。
三日、四日、五日と時が過ぎて行く。
助けは来なかった。
七日、八日、九日と時間はどんどん経っていく。
それでも助けは来なかった。
その頃には暴行は最早強姦へと変わっていた。
毎日のように体を暴かれた。
ある時はベッドに縛り付けられた状態で、またある時は床に組み敷かれた状態で。
何度も髪を掴まれ、舌を這わされ、歯を立てられた。
連中のチャクラが体の中に入ってくる度に激しい拒絶の念に駆られた。

『やめろ、やめろ。』
『これ以上俺を侵すな。』
『踏み込んでくるな。』

体が他人のチャクラに塗り替えられていくような感覚に、何度も嫌悪感と吐き気が押し寄せてきた。
相方ではない赤の他人のチャクラ。
それが問答無用にこちらの胎内を暴き、犯していく。

『嫌だ、嫌だ。』
『交わりたくない。』
『こんなの俺は望んじゃいない。』

何度果てた事だろう。
何度己の体質を呪った事だろう。
このまま自分は死んでいくのか。
性欲処理の人形として。
薬物漬けのモルモットとして。
これでは淫売と何ら変わらないではないか。

『綺麗な容姿をしているじゃないか。忍にしておくには勿体無い。』

いつだったか、任務で上役の一人を相手にした時に言われた言葉が頭を過ぎった。
何故今になってそれを思い出すのだろうか。
今までに何度も同じ言葉を掛けられてきた。
感嘆の意を込めて言う相手もいれば、皮肉を込めて言う相手もいた。
それが意味している事は一つしかない。
「お前は売女の方がお似合いだ。」
言葉の裏に潜められたその意味に、何度胸を抉られた思いをした事か。
口元を歪め、己に対する蔑みを込めた笑みを浮かべた。
彼らの言う通りだ。
実際自分はそうだったではないか。
昔からそうだった。
引き摺り込まれるように意識は過去へと向かう。

初めて男を知ったのは十五の頃だ。
それ以来極秘で指名を受けては何度も上役達の相手をしてきた。
雷影の相手も何度かした事がある。
この事を知っているのは恐らく雷影と、上役達のごく少数だろう。
好んでその道を選んだ訳ではない。
そうするしかなかったのだ。
感知タイプであり幻術タイプ。
体術より頭脳の方が優れていた自分は、周囲の同性の忍の目には非力で女々しい存在に映ったらしい。
周囲からの風当たりは強く、アカデミーの頃から自分は孤独だった。
友人はいたものの、同じ苦しみが分かる相手は一人もいなかった。
感知タイプである事を見下されるか、頭脳を妬まれるか、そのどちらかだった。
面と向かって誰かに認められた事は一度もない。
心の奥底では常にそれを渇望していたのかも知れない。
子供なら誰もがそう願うものだ。
そして、それが叶わなければ大人になっても同じ事を望んでしまう。
だからやれる事は何でもした。
里の役に立てるのなら上役の性欲処理役だろうと何ら苦にならなかった。
何でもいい、誰でもいい。
とにかく自分を認めてもらいたかった。
それはあまりにも子供じみた、純粋な願いだった。
そういう事でしか己の身を立たす事ができない自分が忌々しかった。

「本当にそれだけか?」

突然声が響く。
女のように高い、微かに低音が混じった声。
ハッと息を飲み、宙を睨んだ。
━誰だ。
再び声が聞こえた。
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