□日はまた昇る7.5
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「そうしてると本当に医療のプロみたいね。」

聞き慣れた声にはたと振り返った。
集中治療室の扉が開いており、メイがそこに立ってこちらを見据えている。
静かに彼女に向き直った。

「あなたでしたか、水影様。」
「あら、気付いてなかったの?」
「集中していたものですから。何故ここに?」
「様子を見に行こうと思ってね。その調子だと寝ないで働いてたんでしょう。」

メイの言葉に壁の時計に目を移す。
午前7時。
もうそんな時間なのか。
そう言えば昨日の晩からずっと治療に掛かり切りだったのだ。
今になって疲労感がじわじわと押し寄せてきた。
それでもまだ眠る訳にはいかない。
施さなければいけない処置がまだ沢山残っていた。
額当てを外して息をつき、疲れた表情で青は苦笑を返した。

「もう一踏ん張りする必要がありそうだ。まだ休めませんよ。」
「ここまで必死になるあなたを見るのも初めてよ。まあ、この酷い仕打ちじゃ納得がいくけれど。」
「・・・自分でも不思議です。」

乱雑に天色の髪を掻き分け、溜息をついた。
改めて集中治療室を見回す。
さすがは雷の国と言うべきか、医療機器はしっかり整えられている。
経済面でも豊かな為だろう。
治療室の中央に据え付けられたベッドに視線を移した。
柔らかな寝台の上には死んだように眠る青年の姿があった。
稲妻を連想させる淡い金髪。
血の気の失せた人形のような顔。
シーツ越しからでも分かる前よりも嵩が減った華奢な体躯は、繰り返し彼が受けた暴行の惨さを物語っていた。
頬や額には所々にテープやガーゼが貼られている。
体中に包帯が巻かれ、白い肌の至る所に付けられた痣や痕は出来るだけ隠しておいた。
腕や脚には幾つもの点滴が繋いであり、青白い体から伸びる数本のチューブが痛々しく目に映る。
体に残っている大量の薬を抜くべく施した処置だ。
体にこびり付いていた血や汚れは大方清め終え、今は清潔そのものだった。
それでも未だに白い肢体は微かな精臭を漂わせている。
それだけ長い時間彼は辱めを受けていたのだろう。
そう思うと胸が痛んだ。
カルテを留めたボードを手に取り、青は告げた。

「連中が彼に投与した薬は自白剤、興奮剤、麻薬の他に、チャクラを抑制する薬も含まれていました。ほとんど薬漬けの状態です。」
「随分と悪趣味な趣向の持ち主だったようね、あの集団は。彼も可哀想に。」
「ええ・・・。まるであの頃に戻った気分だ。」

『あの頃』。
それが何を意味するのかは言うまでもない。
言葉に出さずとも自分達にはすぐにその意味が通じてしまう。
メイがゆっくり尋ねた。

「・・・過去にもこういう事があった、みたいな言い草のように聞こえるけれど。」
「・・・お察しの通り、残念ながら実際にあった事だ。大勢の被験者が犠牲になった。その当事者が今回の中心人物です。」
「その人体実験、最後はどうなったの?」
「事実を知った私が告発してすぐに止めさせました。その後彼は数人の部下を連れて里を抜けて行った。」

沈黙。
複雑な面持ちでメイがこちらの言葉を引き継いだ。

「・・・そして霜の国を拠点とした忍集団を作った。こういう事かしら?」
「恐らくそう考えて間違いないでしょう。それが今回のような事態を招いてしまった。」

思わず拳を握り締めた。
もっと早くから連中を始末していればこんな事にはならなかった筈だ。
無関係であるシーが巻き込まれる事にも繋がらなかったに違いない。
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