□動揺からの心配
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※シーが大怪我した話より少し前の話
※実はもうすでに一回見舞いに来てたダルイ

「シーが怪我して帰って来てた。」

一緒に歩いていた彼女の口から放たれた言葉に思わず立ち止まった。
「え」と間の抜けた声を上げて振り返り、隣で歩いていたサムイの顔を見つめ返す。
いきなり出てきた相方の名前に思わずドキリとしてしまう。
怪我?
あのシーが?
聞き間違いか何かだろうか。
が、そうではない事をすぐに理解した。
彼女の表情は真剣そのものだ。
そもそもこの人はそんな事を冗談にはしない。
戸惑いつつもダルイは先輩に質問した。

「怪我って・・・、今日の任務で?」
「ええ、ついさっき戻って来たのを見たの。今はもう病院に運ばれてるところだと思うわ。」
「怪我の具合は?」

普段と変わらない調子でサムイに聞く。
内心は動揺していたが、なるべくそれを悟られないように声のトーンを抑えた。
ダルイの質問に彼女はうーんと考え込み、やがて困ったように答えた。

「そこまではわからなかったわね。何せ遠くからしか見てなかったし。」
「・・・そっスか。」

よほど想定外な事態が起こったに違いない。
彼が負傷する事は滅多にないと言うのに。
冷静な相方にしては珍しいと思った。
ボンヤリと今朝の出来事に頭を巡らせ、任務に出向く彼を見送った時の事を思い出した。
別れ際に聞いたシーの言葉が甦る。

『今日の任務は厄介な奴が相手らしい。筋金入りの抜け忍なんだと。』

死なない程度に気を付ける。
そう言って彼は出掛けて行ったのだ。
無意識に拳を握り締めているのに気付き、心の中で苦笑する。
負傷で済んだのだから安心していいってのに。
運が彼に味方してくれたのだ。
なのにどうして喜べない?
そのままダルイは黙って歩き出した。
サムイがその後を付いていく。

「ダルイ。」
「何スか、サムイさん。」
「行かなくていいの?」
「行くって、どこに・・・。」
「病院よ。」

再び立ち止まって振り返る。
サムイは澄んだ水色の目をまっすぐこちらに向けていた。
真っ直ぐに向けられる視線に、思わず目を背けそうになった。
この人の目はあまりにも潔すぎる。

「本当はものすごく心配してるんでしょ。行ってあげなさいな。」
「だけどサムイさん、手伝ってほしい事があるって言ってませんでした?」

その為に自分は彼女と一緒に来たのだが。
戸惑うダルイの言葉をさえぎり、サムイが切り返した。

「心配御無用よ。アツイにでも頼んでおくから。そんなに大した用事でもないしね。」

それで、行くの。行かないの?
腕を組んで問い詰めるサムイに、ぐっと言葉に詰まってしまった。
ここは素直に自分の気持ちに従った方が良いのかも知れない。

「あー、何かすみません。サムイさん・・・。」

礼儀正しくペコリと頭を下げると、彼女は笑って返してきた。

「謝る必要なんてないわ。それより早く行ってあげた方がいいんじゃない?」
「言われなくてもそうしますって。」

くるりと向きを変えて走り出す。
と、サムイの声で呼び止められた。

「ダルイ。」

振り返るとサムイは涼しい笑顔で付け加えた。
こちらの顔を指差して言う。

「病室ではクールにね。今の顔だと全然クールに振舞えてないわよ。」

サムイの言葉に思わず苦笑した。
そんなに表情に出ていたのだろうか。
一体どんな顔をしていたのだろう。

「そんなに顔に出てます?」
「思ってる事がバレバレよ。気持ちがダダ漏れ。忍なら忍らしく、もっとクールに振舞えるようにならないとね。」
「うわ、すげー直球。」

鋭い指摘にアハハと笑ってみせ、ダルイは白髪を掻き分けた。
ニコリと笑い返して言う。

「了解っス。ホントすみません。サムイさん。」
「気にしないで。早く行ってあげな。」

いってらっしゃいと手を振るサムイにもう一度頭を下げる。
そのまま病院に向かって駆け出して行った。
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