□通りすがりの14.5
2ページ/3ページ

━最悪だ。
そう内心で悪態をつき、寝癖の付いた髪を掻き分ける。
里の大通りを抜けながら空に目を向けた。
時間は昼。
空からは容赦なく日が陽光を注いでいた。
欠伸を噛み締めて空を睨み付ける。
むかつく位に燦々と晴れ渡っている。
どうも自分は他人なら嬉しく思う事に突っ掛かる性分のようだ。
━ああ、どうしようもないな。
今日は機嫌が悪い。

不機嫌の理由は低血圧もあるだろう。
が、今日はそれとは違う。
あの夢だ。
また昔の夢を見てしまった。
どうも最近は昔の事を思い出す。
この里に来てから。
否、あの金髪の医療忍に会ってから。
あの若者を見ると、何故だか昔に返ったような気分にさせられる。
それだけまだ自分が忘れ切れていないのだろう。
あの旧友の事が。
━でも違う。
内心で首を振る。
そう、違う。
シーは確かに「彼」と似ている。
だがシーは「彼」ではない。
混同させてはいけない。
シーはシーだ。
店が立ち並ぶ通りを横切っていた藍は、そうごちた。
そう、関係ない。
彼は無関係だ。
━そういや。
ふとあの薬袋を思い出した。
十粒入りのPTPに入れられている錠剤は、もう後二粒程しか残っていなかったに違いない。
━また、寄ってくか・・・。
この間貰った薬が早くも切れ掛けている。
眩暈の度に薬に頼っているせいだろう。
だがおかげで前よりも眩暈は治まっているらしい。
薬が効いていると言う事だろう。
彼の言う事は正しかったのだ。
もう暫く里を歩いて、それからまた病院に行く事に決めた。

・ ・ ・

里の河川敷沿いの砂利道を歩いていると、小さな人だかりが目に付いた。
━あれは・・・。
川沿いで子供達が遊んでいる。
大体が下忍位の小さな子供達のようだ。
が、その中に一人だけ背の高い子供が混じっている。
褐色の肌に白い髪。
黒のタンクトップに黒いボトムス。
ラフな格好だ。
が、すぐに誰だか分かった。
━あいつ確か――――。
そう、あの子供だ。
自分に回し蹴りを食らわせた子供。
あの感知タイプの少年の友人。
そして確かシーの後輩でもある子供。
無意識に足がそちらの方へと向かっていた。
だんだん子供達の姿がはっきり見えてくる。
どうやら川で石投げ遊びをしているらしい。
はしゃぎながら石を投げ、どれ位石が水面の上を跳ねて飛んでいくのかを競っているのだろう。
自分も昔よくした遊びだ。
不意に懐かしい気持ちが湧いた。
郷愁のようなものだろうか。

「あれ、おじさん?」

唐突に声を掛けられる。
思わず固まって立ち止まった。
誰だ。

「おじさん、おじさんでしょ?お金くれた・・・。」

一人の少年が駆けて来る。
見覚えのある子供だ。
木の実のような大きな瞳に、ややぼさついた髪。
そして思い出す。
自分の財布を掏ろうとしてきた、そして紙幣を手に握らせたあの子供だ。
前よりも小綺麗な服を着ていて頬にも肉付きがあるものの、すぐにそうだと分かった。

「・・よぉ、お前か。」
「あの、えっと、お金ありがとう!あの後ね、皆でラーメン食べに行ったんだ。めちゃくちゃ旨かった。」
「ほお、それは良かった。」
「本当にありがと、おじさん。」

無邪気に子供が笑い掛けてくる。
その無垢さに思わずたじろいだ。
あれだけ怖い目に遭わせてしまったと言うのに。
何故そんな笑顔を向けてくる?
気まずそうに藍は頭を掻いた。
視線を合わせる為(何せ子供が後ろに倒れそうな位に首を反らしてこちらを見上げている)、ゆっくりとしゃがみ込む。
子供は見た所ましな生活を送っているらしい。
あの後、何かがあったのだろう。

「随分垢抜けたみたいだな。良い事でもあったか?」
「金髪の先生がね、火影様の所に連れてってくれたんだ。今は大きい家に、皆で住んでるんだよ。」

成程。
あの後どうやら子供は施設に預けられる事になったらしい。
里に戦争で親を亡くした小さな子供の為の孤児院があると言う事は風の噂で聞いていた。
この子供もそこで暮らしているのだろう。
それは置いておいて。

「なあ、怖くないのか。」
「?」
「おじさんの事だよ。冗談とは言え、怖い思いさせちまっただろ。」

じっと子供がこちらを見つめてきた。
厳かな雰囲気を出そうと努めて藍は言った。

「おじさん、ひょっとしたらお前の事喰っちまうかも知れないぞ?」

きょとんと子供が見つめ返してくる。
やがてふるふると首を振って彼が答えた。

「ううん、怖くないよ。ちょっとビビっちゃったけど・・・おじさん、悪い人にも見えないから。」
「本当か?」
「うん。それに、さっきのも冗談でしょ?」

完全にこちらの完敗だった。
思わず苦笑を溢す。
子供には敵わない。
目の前の少年はあまりにも無垢で、あまりにも真っ白過ぎる。
自分と正反対のタイプだ。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ