□通りすがりの8
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トクマとコウ、二人が部屋に入り、ホヘトとザジを挟んで畳に座る。
コウを見た途端、シーのチャクラがやや棘を張り巡らしたかのように張り詰めたのを感じた。
コウもそれを感じ取ったらしい。
が、何も言わなかった。
盆を傍らに置いたトクマがにこやかに言う。

「貴方がシーさんですね。うちの後輩を最近独り占めにしてたのは、貴方だったのかぁ。」

直球すぎるトクマの言葉に、思わず慌てて彼を見上げた。

「ちょ、ちょ、トクマさん。独り占めって。人聞き悪いっスよ。」
「はは、冗談だよ。彼だってそれは分かってるさ。」

朗らかに彼が微笑む。
シーを見ると、意外な事に彼はおかしそうに口角を上げていた。
意外とこうしたブラックジョークは好きなのかも知れない。
小さく笑ってシーが言う。

「その様子だと俺の事はよく聞いているようですね。」
「ええ、貴方の噂は結構聞いていましたから。」
「ほう。」
「俺は日向トクマと言います。そして・・・。」

そう言うとトクマが意味ありげな目線をコウに向ける。
決まり悪そうにコウが口を開いた。

「・・日向コウです。貴方とは、一度お会いしていますね。」

そして沈黙。
ぎこちない雰囲気が漂っている。
シーは無表情を崩さないまま、黙ってコウを見つめ返していた。
トクマが促すようにコウの腕を小さく小突いた。

「ほら、コウさん。まだ言う事があるんでしょう?」
「分かってる・・・、ちょっと待て。」

ぎこちなく咳払いをし、コウが口を開いた。

「この間の件の事を謝りたかったんです。貴方にあんな態度を取ったのは、幾ら何でも理不尽だった。
 愚かな事をしましたよ。おかげで貴方だけでなくザジまで傷付けてしまった。」
「コウさん・・・。」
「申し訳ない。お許し下さい。」

勢い良く彼が頭を下げる。
ふう、とホヘトが息をついた。
「やれやれ」と言っているように。
トクマも呆れたように微笑んでいる。

「宜しい。ちょっとは頭が冷えたようだな、コウ。」
「コウさんたら、ザジを泣かせるんですもんねー。うちの可愛い後輩苛めた分まで土下座して下さいね。」
「・・二人共、からかってるでしょう。」
「お前が誰かに土下座してるなんてそうそう見れないからな。まあ、冗談はそこで置いておこう。」

ホヘトが正座を緩め、同じように頭を下げる。

「俺からも言わせて下さい。日向の分家を代表して。」
「じゃあ、俺からもお願いさせてもらいます。」

トクマも同様に頭を下げた。
一斉に頭を下げる先輩達の姿に、慌ててザジも頭を下げる。
沈黙が流れた。
顔を微かに上げて見てみると、戸惑ったようにシーがこちらを見つめていた。
やがて彼が言う。

「頭を上げて下さい。」

シーの言葉に三人が顔を上げた。
ザジもそれに合わせて顔を上げ、姿勢を正す。
そのまま黙ってシーを見つめ返した。
彼が続ける。

「貴方達日向が、俺達雲に反感を抱いている事は、十分承知していました。だからどうか、気にしないで下さい。」
「ですが・・・。」

ホヘトの言葉をシーが手で遮る。

「貴方は俺を受け入れると言ってくれた。オモイの事も受け入れると。正直、驚きました。もう済んだ事とは言え、俺達は敵同士なのに。」
「シーさん・・・。」
「貴方達が俺達を受け入れてくれるなら・・俺は貴方方一族には何もするつもりはありません。貴方方の後輩にも。」

彼がこちらに視線を向けた。
パチリと彼と目が合い、思わずドキリと体を固くする。
シーは無表情だ。
が、彼の黒い瞳には温かい光が宿っていた。
次の瞬間、珍しくにこりと笑って彼が言う。

「俺はここに来るまで・・こんなに沢山の感知タイプの人に出会った事がありませんでした。だからなのかも知れませんね。
 ここにいると・・不思議と故郷にいるような気分にさせられる。俺はここの人間ではないのに、おかしな話だとは思いますが。」
「・・・。」
「貴方達やザジを見ていると・・仲間のように思えてくるんです。同じ能力や感覚を持った、『同族』のように。」

同族。
その言葉が耳に残った。
━俺と、一緒だ――――。
自分も彼に対してそんな思いを抱いていた。
初めて会ったと言うのに、まるで昔から知っていたかのような。
久しぶりに再会を果たした旧友のような。
シーに会う度、そんな懐かしく温かい感情が胸を満たしていた。
彼も同じ感情を抱いていたのだ。
そう思うと嬉しかった。
穏やかに彼が続ける。

「貴方達との繋がりを、信じてみようと思います。貴方達も・・・俺達を信じてもらえますか。」

沈黙が流れた。
やがてホヘトがゆっくり頷き返す。
片手をシーに差し出し、彼に向かって手を差し伸ばした。

「信じます。信じましょう。貴方はザジの先輩になってくれた。
 オモイも、この子の友達になってくれた。疑う理由などありません。」

キュ、と互いの手をしっかと握り合う。
フッと笑みをこぼし、シーが言った。

「ありがとうございます。」
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