□通りすがりの7.5
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「あーくそ・・。もろ顔面やられちまったな。」

じんじんと痛む頬を擦り、住宅街の屋根の上に腰掛けた。
冷たい夜風が頬を撫で、髪を撫でていく。
もうすっかり慣れ親しんだ感覚だ。
長い事野外で夜を過ごしてきたせいか、今ではすっかりそれに馴染んでしまっている。
ただし、それにもやはり限界はあるのだが。
━・・寝床が恋しいぜ・・。
正直少し肌寒い。
冷えた夜の風を直撃で受けているのだ。
一番良いのは宿を取る事なのだろうが。
それは避けた方が良い。
本能がそう告げていた。
顔を覚えられる可能性もある。
自分の存在は極力あまり知られない方が良い。
とは言いつつもここに着いて早々に、早速その決まりを破ったのだが。
自分の後ろを小さな子供がちょこちょこと付いてくるのに気付いて(チャクラで丸分かりだった)。
それに少しイラついて。
それで脅かしてやろうと思っただけだったのだが。
━それがあそこまで騒ぎになるとはな。
何もかもが想定外だった。
中忍の子供が乱入してくる事も、顔面を蹴り付けられる事も。
それで愚かにも頭に血が上ってしまった、と言う訳だ。
━我ながら、血迷ったもんだ。
長い溜息を吐き出し、刀を抱き込む。
まあ通行人の目には自分はその辺にいるただのゴロツキに映った事だろう。
何も起こらず、これからの計画に何も響かない事を願いたい。

懐から手帳を取り出し、それを開く。
びっしりとそれには図や文字が書き込まれ、ページを埋め尽くしていた。
字の形には何も言うまい。
字の止めるべき所は中途半端に跳ねたり、払いになっている。
跳ねるべき所は止めになっていたりもしている。
字の止め跳ねがなっていない。
昔の旧友ならそう指摘して、こう言った事だろう。

『いい加減字を直せ。みっともないぞ。』

━・・言うだろなあいつなら。
思わず小さく笑う。
結局そのまま自分の文字は直さなかったのだが。
自分が悪筆だと言う事は百も承知だ。
が、それを直そうとは思わなかった。
ある意味でこの文字の汚さは、文の内容を読み取られない為の暗号文になっている。
自分にしか分からない、と言う訳だ。
何度これに助けられた事か。
神のみぞ知れず。
逆に言うと自分にしか読み解けない程に字が汚いと言う事になるのだが。
構うものか。
それに、もう自分以外が自分の文字を読む事など毛頭ないに違いない。
もう自分はどこにも属していないのだから。

屋根の上で寝そべり、手帳のページをパラパラと繰っていく。
その中のある項に目を留めた。
じっとその文章を眺め、黙々と読み返す。

『白眼:三大瞳術。透視眼・望遠眼の力を持つ。
    ・遮断物を透視、先の事物を捉える
    ・人体の経絡系、チャクラ穴を正確に見極める
    ・極めれば点穴を見極める事も可能
    ・洞察眼に関しては写輪眼を凌ぐ       』

一通り読み終えるとパタンと手帳を閉じた。
眼下に広がる里の景色に目を向ける。
まだあちこちに民家の灯りが灯っている。
街が眠りにつくのはまだまだだろう。
そっと眼帯に覆われた左目に手を添えた。
あの雲の子供に蹴られたのが右頬で本当に良かった。
運があったと言う事だろう。
正直な所、右目が半分閉じ掛かっている。
頬の痛みのせいで上手く目を開けられないのだ。
本当に想定外の負傷だった。
━あの褐色のガキ、大した奴だったな。
そして、自分達の間に割って入ってきたあの金髪の若者。
思わず拍子抜けてしまった。
何せあれ程端麗な容姿をした男は初めて見る。
金髪に白い肌。
彫りの深い顔。
━ありゃ雷の国の人間だな。
恐らくあれが俗に言う「白人」なのだろう。
それも特に麗しいランクの。
一番美しいと言われているのは淡黄色の髪に水色の瞳を持つ人間だとも聞いた事がある。
が、あの若者の漆黒の目もそれに負けない位惹き付けられる物があった。
━あいつもなかなか――――。
あの青年が自分を止めた判断は正しかった。
自分に掛かればあんな子供など、あっと言う間に息の根を止めてしまえるだろう。
分かったのだろうか。
こちらの殺気が。
自分のチャクラが?
━あの金髪も、ただの上忍じゃないらしい。
ガリッと親指の爪を噛む。
考え事をする時の自分の癖だ。

「・・っくく・・・。」

小さく声を押し殺して笑う。
面白い。
なかなか面白い。
なんと滑稽だろう。
今回はなかなか面白い事になりそうだ。

「そうこないとな。すんなりいくだけじゃつまらない。」

誰に言うでもなくそう呟いた。
再び左目に手をやる。
━あと一つ。
そう、あと一つ。
あと一つ揃えば。
全て上手くいく。
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