□通りすがりの6
2ページ/2ページ


「・・・っ、・・ぅ・・っ。」

目頭が不意に熱くなる。
喉の奥がきゅっと締まり、苦しくなった。
駄目だ。
駄目だ。
抑えろ。
込み上げる物を必死に押さえ込もうとする。
が、やはり駄目だった。
肩が震え始める。
自分の体を包み込みたくて、両肩を抱いた。
再び墓石に手を置く。
ひやりとした冷たい感触。
もし、あの時。
彼の死体が残っていて。
彼の最後を見る事が出来たら。
もしそうだったなら、彼の体もきっとこれ位冷え切っていたに違いない。
そう、もしそうだったなら。
でもそうはならなかった。
現実はもっと残酷で冷たかった。
ムタはあの爆発で、跡形もなく消し飛ばされてしまったのだ。
あの時の感覚を今でも覚えている。
背中にムタの体温を感じた。
彼の息遣いも。
彼の腕の感触まで、はっきりと。
そして、熱風が背中を襲って。
背後で肉が、弾けたような感触がして。

「・・・ぅ、ぁ、ぁ・・・。」

彼は消えてしまった。
そう、消えてしまったのだ。
ザジが最後まで握っていた、ムタの血がべっとりと付いた、破れた衣服のボロ切れだけを残して。

「・・・ぁ・・う゛あ゛あ゛・・・っ!」

とうとう涙が頬を伝い落ちた。
ボロボロと目からそれが溢れ出す。

「ごめん・・なさい・・・。」

ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい、ムタさん。
ごめんなさい・・・。
━あの時、俺がイッタンさんの言ってた事、もっとちゃんと聞いてたら。
あの時無鉄砲にムタに駆け寄らなかったら。
もしそうしていたなら。
ムタを助け出せたかも知れないのだ。
馬鹿だった。
本当に馬鹿だ。
馬鹿だったんだ――――。
エリート揃いの奇襲部隊に選ばれた事が嬉しくて。
得意げになっていた――――。

「――――っ。」

ゴシゴシと目を拭う。
泣いちゃ駄目だ。
泣いたって、あの人はもう戻って来ないんだ。
甘えてちゃ駄目だ――――。
すっくと立ち上がるとバケツを引っ掴み、踵を返して歩き出す。
後ろは振り返らなかった。
振り返ってしまえば、自分が崩れ去ってしまいそうな気がしたからだ。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ