□通りすがりの4.5
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「あの後俺ら二人で、あの子を病院まで送ったんだよな。」
「そうそう。手繋いで。」
「あの時のオモイ、ホントかっこ良かったな。」

こちらの言葉に小さく笑ってオモイが呟いた。

「放っておけなくてさ。昔の俺見てるみたいで。」
「ええ?」

目を見開いて友人を見つめた。
思わず訊き返す。

「ここだけの話、小さかった頃は凄い気弱で頼りない奴だったんだ。」
「冗談?」
「マジな話だよ。泣いてる所とか、気弱な所とか、いじめられてる所まであの子とそっくりだったな。」

再び寝返りを打ち、彼がこちらに体の向きを変える。
エキゾチックな顔立ちに、長めの睫毛をした黒い目が見つめ返してくる。

「昔の話、興味あったりするか?」
「ちょっと気になるな。」
「おかしくても笑うなよ。」

小さく笑い返して笑わない事を約束する。
少しずつオモイが話し出した。

「アカデミーの頃はとにかく泣き虫でさ。よくいじめられてたんだ。」

小柄で細くて、気弱ですぐに泣き出してしまう。
典型的ないじめられっ子だったのだと言う。
よく体の大きい仲間に泣かされては、その度に双子の姉に守ってもらっていた。
(「カルイって名前の奴なんだけど、会った事あるよな?赤い長い髪して、目が金の。」)
成長期に入ってからは体も大きくなり、だんだん自信が付いてきたのだそうだ。

「今はだいぶしっかりしてる。まだマイナス思考な所は残ってっけど。」
「いや、お前めちゃくちゃ頼れる奴だって。」
「そう言う事言われたのは初めてだなぁ。」

無邪気に笑ってそう言うと、今度は彼がこちらに質問してきた。

「ザジ、お前は?昔はどんな感じだった?」

今度は自分の番だ。
頭を巡らせ、過去の思い出を遡って行く。
オモイが弱かった頃の自分の話をしてくれたのは、恐らく自分を信頼してくれているからだ。
だったら自分もありのままの話をしよう。
オモイになら打ち明けられる気がした。
自分がずっと隠してきた、先輩も知らない心の内を。

「俺ってほら、先輩多いだろ?」
「ホヘトさんとか、トクマさんとか・・だったよな。」
「他にも一杯いるんだ実は。俺昔から先輩っ子だったからさ。」

飾りも何も付けずに自分の境遇を打ち明けていく。
両親を早くに亡くした事。
感知タイプだった事もあり、同じ感知系の能力に秀でた一族の人達に度々世話を焼いてもらっていた事。
家族の一員のように受け入れてもらっていた事。
今もその関係が続いている事。

「日向家と油女家の皆に、昔からお世話になっててさ。」
「両方名門の一族じゃん。凄いな。」
「そう思うだろ?でも、逆にそれを妬まれる事も多くてさ・・・。」

アカデミーに入って、下忍になって。
初めて額当てを貰った時はホヘトにそれを頭に巻いてもらった。
真新しい額当てを巻いてもらい、すっかり得意げだった。
「これで俺もホヘトさん達の仲間入りっスね!」と言う自分に、彼は「大変なのはまだまだこれからだぞ」と笑って返していた。
先輩達と混じって修行をする事も多かった。
中忍試験を乗り切った時は、先輩皆が一緒に喜んでくれた。
誕生日には毎年彼らに祝ってもらった。
蝋燭を立てた小さなケーキを囲むと言う本当にささやかなお祝いだったが、それでも嬉しかった。
先輩達が手拍子に合わせて歌う、不器用なハッピーバースデイの歌。
「おめでとう」の言葉。
孤児でこう言った事に恵まれているのは珍しい事だったのだろう。
大抵の親のいない子供は一人寂しく誕生日を過ごすし、アカデミーを卒業しても誰も一緒に喜んでくれる家族はいない。
自分は本当に恵まれていた。
先輩達を誇りに思っていたし、自分も彼らの一員として認められている事を誇らしく思っていた。

だからなのかも知れない。
ある時、とある同期の忍がこう言うようになった。
「依怙贔屓じゃないか」と。
何で感知能力しか目立った取り柄のない同い年の奴が、血継限界の名門一族に可愛がられているのか。
同情を掛けられているだけじゃないか。
あいつは忍としてこれと言って大した力は持ってないじゃないか。
何であいつが。
初めは一人だけそう思っていた仲間が、二人、三人、数人と増えていった。
わざと仲間外れにされたり。
(「お前には先輩がいるだろ。」)
スリーマンセルを組んでも自分だけ会話に加えてもらえなかったり。
(「んだよ。割り込んでくんなよ。」)
いつしかそう言う事がよく起こるようになった。
嫉妬と羨み。
それが原因だった。
自分は何もしていない。
ただ差し伸べてくれた手を握って、引かれて歩いてきただけだ。
だから気にしないように努めて、ひたすら笑顔を顔に貼り付けた。
毎日が虚しく苦しかった。
最終的に班を担当していた上忍の先生が気を利かしてくれ、班を組み換えた事で事は一先ず治まった。
それでも同期の仲間との溝はもう元には戻せない程に深まってしまっていた。
それ以来、同年代の仲間と連むのをやめた。
他の仲間は皆自分を受け入れてくれていたものの、どう思われているのか怖かったからだ。
あれからもうずっと、任務でなくても先輩達と過ごすようにしている。
大戦で奇襲部隊に配属されるまで、あれ以来同年代の仲間と一度も組んだ事はない。
それだけ自分が心に負った傷は深かったのだ。

「お前とサイが、数年ぶりに出来た友達だったんだ。初めての親友だった。」

息をついてザジは口を閉じた。
こんなに他人に自分の事を話したのは初めてのように思う。
嫌がらせを受けていた事も、同年代の仲間が苦手になってしまった理由も誰にも打ち明けた事はない。
先輩達すら知らない筈だ。
初めての打ち明け話だった。

オモイは黙ったままこちらを見つめている。
やがて囁いた。

「・・そんな嫌な事があったんだな。」
「・・ま、自業自得って奴?俺って結構すぐ調子に乗る癖があっからさ。」

へらりと笑ってみせる。
何でもない、もう終わった事を語っているのだと思わせる為に。
が、オモイは笑わない。

「ザジ。」

彼が言った。

「お前は悪くねえよ。」

笑みを消してオモイを見つめ返す。
彼の目は真剣だ。
本気でそう思ってくれているのだろう。
胸がぎゅっと熱くなる。
こんな俺でも、お前は良いのかよ。
何でそんなに優しいんだよお前。
目からポロリと何かがこぼれた。
涙だ。
ポロポロと涙が流れ落ちていく。
ああ、そうか。
俺、苦しかったんだ。
ずっと溜め込んでたんだ。
さすがに友人の目の前で泣くのはみっともなく思え、慌てて腕で目を拭おうとした。
が、彼がそれを止める。

「泣ける時に泣いとけよ。全部流しちまえ。」
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