□日はまた昇る11.5
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歩きながら頭を集中させ、周囲のチャクラに意識を集めた。
前方に二つ。
そして、屋上にも見知ったチャクラが二つ。
屋上の二つはシーとダルイのチャクラだとすぐに分かった。
寄り添うように重なり合った二つのチャクラ。
無事にダルイは彼を連れ出してくれたらしい。
密室に閉じ込めさせておくよりは、外の空気を吸わせた方が今のシーにとっても良い筈だ。
そう判断した故に、青は密かに彼に外出許可を出していたのだ。
後はダルイに任せるつもりだった。
自分がしたのはシーの心を解して、溜まった膿を取り除いた事だけだ。
それでも自分だけでは全部の膿を取り出す事は出来ない事も分かっていた。
自分と彼の共通点は、感知タイプとしての痛みだけなのだ。
他人である自分にシーの心に溜め込んだ全ての膿を取り除いて、傷を塞ぐ事までは出来ない。
ダルイならそれが出来るに違いない。
誰よりもシーの隣にいた彼ならきっと。
自分はその手助けをしただけに過ぎない。

が、自分の中でもそのおかげか変化があった事も確かだ。
長い間、胸の奥に閉じ込めてきた痛み。
氷のように冷たく凍て付いた心。
誰にもそれを話した事などなかった。
ただの一言も。
己のプライドがそれを許さなかったのだ。
「弱みを見せてはいけない。」
「痛みに負けてはいけない。」
「心だけでも強くあらねば。」
そう言い聞かせて今まで生きてきた。
それが僅かではあるものの、幾ばくか溶け出してきたような気がした。
初めて人前で涙を見せた。
初めて同じ痛みを持つ者の存在を知った。
そして、初めて自分の抱えてきた傷を他者に打ち明けたのだ。
それはもうとっくの遠い昔に諦めていた事だった。
諦めていたと言うのに。
巡り合いとは何と不思議なのだろう。

廊下を歩いているとやがて二つの人影が見えてきた。
メイと長十郎だ。
久しぶりに彼らの姿を見た気がする。
それだけ自分は治療室に篭り切りだったのだ。
チャクラの質で誰なのかはもう分かっていた為、驚きはしなかったが。
静かに二人に声を掛ける。

「水影様、長十郎。」
「やっと落ち着いた所みたいね。」
「先輩、久しぶりですね。ちゃんと寝てました?」

柔らかくメイが微笑みかけてきた。
長十郎も心配そうに質問してくる。
二人共普段と何も変わっていない。
長十郎に至っては治療室に入って以来一度も顔を合わせていなかった。
久々に見る後輩の姿に思わずホッとしたものを覚えた。
何だかんだ言って心配だったのだ。
よく見ると眼鏡越しの目元には隈が浮いている。
案の定彼もあまり眠れなかったらしい。
呆れたように苦笑をこぼすと青は答えた。

「人より自分の心配をしろ。お前こそ隈が濃いぞ、長十郎。」
「はは・・・、何かここに来てから、寝付きが悪くて。」
「・・・夢見が悪かったんだろう。違うか?」
「・・はい・・・。」

決まり悪そうに彼が俯く。
怒られるのではないかと怯えているのだろう。
確かに一昔前の自分なら恐らく喝を入れているに違いない。
今の自分もまだ幾ばくかそうした一面がある。
が、今回ばかりは仕方がないと思えた。
長十郎は忘れられないのだ。
あの場所で見た物を、出来事を。
大人である自分ですら未だに頭にこびりついている。
かつての昔の同胞の声と歪んだ笑み。
極限まで痛め付けられ、辱められた青年。
手術室。
薬品の臭い。
それに混じった、何からくる物なのか考えたくもない甘い臭い。
あまりにも無惨で、思わず目を覆いたくなるような光景だった。
戦争を終えて以前よりも逞しくはなってはいるが、それでもこの後輩はまだ少し頼りない所も残っている。
精神的にはまだまだ長十郎は子供と言っていい。
だから自分のような大人が導かなければいけない。
今回の件は、まだあどけない彼にとっては酷な任務だったに違いない。
「大人」の裏の一面を垣間見てしまったのだから。
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