□揺らぐ
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相手もこちらの苦労は十分分かっているのだろう。
困ったように微笑みを浮かべて医療忍が続けた。

「雷影様もビー様も、シーさんの事を慕っているんですよ。それで甘えてしまうんでしょうね。」
「・・・はは・・・全く良い迷惑だ・・・。」
「あはは・・確かに言えてますね。とりあえず暫くは休んでいて下さい。今貴方に必要なのは休養ですよ。」

それで元気になったら、またあの二人に顔を見せてあげて下さい。
今回の事で少しはお二人も反省したと思いますから。
そう言って彼はスツールから立ち上がり、お辞儀をして病室から出て行った。
部屋が静まり返り、開いた窓から風が吹き込んで来る。
カーテンがゆらゆらと動く様子をボンヤリと眺め、天井を見上げた。
ここの所続いていた寝不足と疲労のせいか、限界が来てしまったようだ。
全く自覚はなかったのだが。
今日も何事もなくただ普通に出勤し、ただ普通に仕事をこなしていただけなのだ。
それが今は病院の一室のベッドで、痩せた体を横たえさせている。
全く何と情けないのだろう。
それだけ自分は無理をしていたと言う事か。
度重なるストレスが知らず知らずのうちにシーの体を蝕んでいたらしい。
今はとにかく寝ていた方がいいだろう。
自分では気付いていないだけで、実際はかなり弱っているのかも知れない。
ゆっくりと目蓋を下ろしていく。
視界がだんだん暗転していく。
と。

━!
頭が咄嗟にチャクラを感じ取った。
ぱちりと目を開けてベッドから上体を起こす。
休めと言われても感知能力者であるシーにとってはそれは容易い事ではなかった。
何せ眠っている間でも、頭の中では始終外部のチャクラを絶え間なく感知してしまうのだから。
呼吸をする事と同じで、自分達感知タイプの忍は常にチャクラを感じ取っているのだ。
本当の意味で休めた事など一度もない。
そう、一度だってないのだ。
静けさと言うものを自分は一度も感じた事がなかった。
何も感じないと逆に不安になってしまう。
自分は普通の人間とは根本的に感覚が違うのだ。
じっと病室のドアを見つめる。
やがてそっとドアが開いた。
やや控えめに扉が開いたかと思うと、ひょっこりと頭が顔を出す。
ダルイだ。
ドア越しにこちらを見つめ返し、彼は静かに問うた。

「・・・邪魔しても?」

ダルイの言葉に黙って頷いた。
のそのそと彼が病室に入って来る。
ドアを背中越しで閉めると、彼は視線を病室に泳がせた。
暫くするとシーのベッドの傍に置いてあるスツールに近付き、それに腰掛けた。
長い沈黙が自分達の間に流れた。
やがて再び彼が言う。

「起きてて平気なのかよ。」
「・・お前なら知ってるだろう。俺がぐっすり眠れない体質だって事は。」

溜息をついて頭を手で押さえた。
今も病室の外を行き来する人々のチャクラを容赦なく頭が感じ取っている。
休みたいと思っても脳だけは休ませる事が出来ない。
感知能力者でなければその大変さは分からないだろう。
これでも修行でだいぶ能力を制御出来るようになったのだが。
子供の頃は今よりもっと大変な思いをしたものだ。
人一倍秀でた力は、その反動も同じ位大きい。

「頭が意志に関係なく勝手にチャクラを拾っちまう。感知能力が眠らせてくれないんだ。」

そう言うとシーは背中から倒れ込むように、再びゆっくりと寝具に身を横たえさせた。
ボンヤリと天井を見上げ、思わず二度目の溜息をつく。
安息が欲しい。
何にも煩わされない、安らげる静寂が欲しい。
が、それが無理な話だと言う事も分かっていた。
喧騒と騒動。
雲の忍として生まれたからにはこの二つから逃れる事は不可能に等しい。
その上ただでさえ自分はそこに一番近い立ち位置にいるのだ。
それが余計に虚しい。
ダルイはその様子を物憂げな眼差しで眺めていた。
やがて呟く。

「感知タイプって便利だけど、意外と大変なのな。」
「・・そうでもない。もう慣れた。ガキの頃からまともに寝れた試しがないからな。」
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