□日はまた昇る7.5
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心の隅で案じてはいた。
その無垢な従順さが身の破滅を招く結果に繋がってしまうと言う事を。
そして恐れていた事は現実になった。
シーは心身共に深い傷を負わされてしまった。
取り返しのつかない程に深い傷を。
そして皮肉にもその傷を付けたのはかつての霧の同胞だった。
偶然が重なった事とは言え何と残酷なのだろう。

水影の声に再び現実に引き戻された。
小さく微笑んで彼女が言った。

「彼の事は貴方に任せるわ。相方の人にもそう伝えて来ましょう。」
「・・・ダルイは今何処に?」
「彼なら病院の待合室でずっと居座ってる。もしかすると貴方と一緒で眠ってないのかもね。」

当たり前だ。
ダルイにとってシーは替える事の出来ない相棒に違いない。
長年連れ添った仲間をここまで傷付けられれば尚更だろう。
他里の自分や長十郎ですら強い衝撃を受けていた。
そう言えば長十郎は何処にいるのだろうか。
まだ若い彼にはショックが大きすぎたかも知れない。
ちゃんと眠っていればいいのだが。

「また来るわ。貴方も少しは休んで下さいね、青。」

肩に手が置かれるのを感じ、そのままメイは治療室から出て行った。
黙って去っていくその背中を見守った。
日を増す事に彼女が影らしくなっていく気がした。

再びベッドに向き直り、吊り下げた点滴パックの位置を直した。
何も問題がない事を確かめると今度は触診に移る。
脈を測る為に白く細い手首をそっと掴むと、僅かにビクリとシーが肩を震わせた。
肌に何かが触れる度に反射的に身構えてしまうらしい。
本能的に体が外部の刺激から自分を精一杯守ろうとしているのだ。
繰り返される暴行の末に衰弱し切った薄い体。
白い顔は未だに青白く、意識は奥底に深く深く沈んでいるようだ。
何かに耐え苦しむかのように眉間に皺を寄せ、微かに荒い呼吸を漏らしている。
必死に何かを掴もうとするかのように、包帯まみれの手を何度も繰り返し開いては閉じていた。
試しに手を差し入れてみると、縋るように彼はこちらの手をきつく握ってきた。
うなされる子供のように、助け出されて尚ももがき苦しんでいる様子が窺えた。
今は暗い闇の中をひたすら彷徨っているらしい。
心はまだあの場所に囚われているのだろう。
普段見せる毅然とした面影はどこにもない。
そこにあるのは雷影の側近でも上忍でもない、どこにでもいる一人の青年としての顔だった。
今になってようやく彼が年相応の若者に見えた。
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