文
□溢れる
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※アニナルを前提にしています
暗い路地をよろよろと歩いていく。
道を照らす物といえば、電柱に取り付けられた街灯ぐらいだった。
ぼんやりと浮かび上がった道を見つめながら、重い体を引きずっていった。
ずきり、と下半身に痛みが走り、思わず顔を歪めた。
「・・・う・・・。」
体がよろめき、咄嗟に建物の壁に手をついた。
精一杯体を支え、息をつく。
「(家まであと、少しなんだけど・・・。)」
腰が痛い。
疼くような鈍い痛みが下半身から伝わってくる。
歩こうと足を動かすだけで、体の奥が軋むように痛んだ。
正直立っているのも辛い。
「(・・・今日の人、激しかったしな・・・。)」
任務帰りで疲れ切った体を叱咤し、ひたすら歩いた。
「(あと少し・・・。)」
普段は短いと感じている家への道が、今日はとてつもなく長く思えた。
ようやく自分の部屋がある建物が見えてきた。
カン、カンと音を立てながらゆっくり階段を上っていく。
やっとの思いで家の玄関に辿り着くと、ドアを開けて中に入った。
「・・・ただいま。」
誰もいない部屋に呼び掛ける。
自分一人しかこの家には住んでいないから、返事は勿論ない。
それでも帰ってきた時は必ず『ただいま』を言うようにしていた。
いつの間にか身に付いていた習慣だった。
幼かった頃に一緒に暮らしていた彼の影響もあるだろう。
それだけ彼はこういう事を大切にしていたから。