□ねがいごと
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「屍体かと思った」
 「・・・桜の木の下には、ってやつか」
 「お前、感知タイプにあるまじき熟睡っぷりだったぞ」
 「寝てても感知はできる」
 シーは、あからさまにむっとした表情をした。
 「え、そーなのか?全然そうは見えなかったぞ。ちっとも起きないし」
 「寝てても、近付いてくるチャクラの感じで、敵か味方かわかる」
 「・・・へえ」
 「明確な敵じゃなくても、冷たいとか悪意があるとか感じたときは、すぐ目が覚める」
 「ふーん。じゃあ寝てられんのはどんなときだよ」
 「・・・うるせーな」
 シーは吐き捨てるように言って、横を向いた。

 「なんか気持ちいいな」
 ダルイは手庇しで陽光を遮りながら、桜の木を見上げた。
 「願わくは花の下にて春死なん、か」
 シーは低く、歌うように口ずさんだ。
 「なにそれ」
 「有名な短歌の一節だ」
 「ふうん。お前ってさ、ホント物知りだよな」
 「・・・俺はジイさんか」
 「単純に褒めてんだぜ?」
 「・・・けっ」
 シーは眉間に皺を寄せて、唇を尖らせた。

 「そういえば、子供のころ、桜の花びらを、地面に落ちる前に取ると願いがかなう、とか聞いたな」
 シーは自分の上着についていた花びらを取りながら言った。
 「へえ?聞いたことないな」
 「そんで、取った花びらを大事にしまっとくと、だったかな」
 「ふーん。・・・じゃあ、これもいいわけ?」
 ダルイはシーの髪についていた花びらを掬い取った。
 「・・・まあ、いんじゃねーの」
 「ふうん」
 しばらくの間、ダルイはじっと花びらを見つめた。
 腰に下げている物入れから、薬類を収めているケースを取り出すと、その花びらを大事そうに中へしまった。

 「げっ、気持ちわるっ、なに、乙女なことしてんだよ」
 シーは大仰に顔を歪ませながら、上体を横に逸らせた。
 
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