□日はまた昇る
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━・・・シーさんだけは、いっつもちゃんと付けてんだよな。これ。
普段の彼を思い浮かべてみる。
本当に彼はいつも額当てを頭に巻いていた。
付けない方が格好良いのに、と彼を見る度にいつも思ったものだ。
おそらく額当てをしていないシーは見た事がないと思う。
よく考えたら彼は服を着崩すという事もしていない。
いつも上までアンダーのジッパーを上げて、首を隠していた。
暑い時期でもそうしているから、ひょっとしたらこの人は暑さを感じないんじゃないか、と思ったほどだ。
それだけ彼はきっちりしていた。

だから、あの時助け出された彼の姿が忘れられなかった。
いつもと違う、全く違う格好。
額当てをしていなかった。
アンダーのジッパーは下ろされて、白い首が見えていた。
ベストもしていなかった。
あの敵忍達にそうされたのだ。
めちゃくちゃにされて、変えさせられたのだ。
それで自分は余計に怖くなって。
辛くなって。

不意に涙がこぼれた。
腕で乱暴にそれを拭う
━・・・ここで泣いてたって、どうにもなんねー。
精一杯自分に言い聞かせた。
泣いたって、何も変わらない。
いつまでもめそめそしていては駄目だ。
しっかりしなければ。
鏡の中の自分を見つめた。
いつも通りの自分が、鏡に映ってこちらを見つめ返していた。
よし、今日は大丈夫だ。
多分。
━・・・演習場行くか。

久しぶりに体を動かしたかった。
ずっと部屋にいたから、なまっているに違いない。
鍛えなければ。
ひ弱な女子だけにはなりたくない。

部屋を出て玄関に向かった。
ドアを開けると廊下をを振り返った。
しばらくじっと廊下をを見つめ、カルイはドアから外へ出ていった。

里の中を演習場に向かって走っていく。
自分の赤い髪が風で揺れた。
久々の外の空気に体が喜びを感じているようだった。
風になった気分で、カルイは里を走り抜けていく。
空は珍しく晴れ渡り、雲が所々にポツポツとあるだけだ。
こんなに綺麗な青空をみたのはいつぶりだろう。
思わず笑みがこぼれた。

「あれ、カルイ!」

誰かに名前を呼ばれた。
立ち止まって声がした方を振り返る。
オモイが二、三メートル先に立ち、こちらに向かって手を挙げいた。
腕に紙袋を抱えている。
珍しく額当てを外しており、短めに刈った前髪が露わになっていた。

「起きたんだ。今からどっか行くのか?」
「・・・演習場に行こうかなって。なまっちまってるだろうから。」
「そっか。気分は?」

心配そうなオモイの言葉に明るく笑って答えた。

「ああ、もう大丈夫だよ。」
「ならいいんだけど。」
「いつまでもしょげてる訳にもいかねーしさ。」

そう言って二カッと笑ってみせた。
一瞬顔が引きつったものの、気にしないようにした。
オモイは相変わらず心配げにこちらを見ている。
ひょっとしたら、無理に笑っている事に勘付いているのかもしれない。
一見ボンヤリしているように見えるが、意外と彼はこういう事に鋭い。
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