□通りすがりの6
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「貴方がシーさん、ですね。」

聞き慣れない声にピタリと手を止めた。
感じ慣れないチャクラだ。
自分の感覚が正しいなら知らない人物だろう。
だとしたら初対面の人物と言う事になる。
なら何故自分の名前を知っている?
振り返らずに静かに答えた。

「何か用ですか。」
「少し時間を貸してもらいたいんです。よろしいですか?」

落ち着きのある低い声だ。
若い男性なのだろう。
否、もしくは自分より年上なのかも知れない。
不思議な響きを持った声だった。
ゆっくりと振り返り、シーは自分の背後に佇んでいる人物に顔を向けた。
ぱちぱちと目を瞬かせる。
予想通りだった。
幾ばくか若さを感じさせる、白襟の黒い着流しを着た男性がこちらを見据えて立っていた。
頭の上の方で結い上げた黒髪。
厳粛な印象を与える顔つき。
目元に刻まれた深い彫りが、幾ばくかの年を感じさせる。
意外と年を取っているのかも知れない。
二十代後半か、もしくは三十代前半か。
もしくはそれ以上か。
見方によっては若くも見え、ある程度年を取っているようにも見える。
普通の若者にはない、重く構えた雰囲気が彼にはあった。
そして、白い瞳。
それを見た途端、思わず息を飲んだ。
━日向の人間、か・・・。
微かに目を細めて男性を見つめた。
何故日向の忍がここに。

「忙しい所失礼します。貴方を探していたんです。」
「ほう?」
「安心して下さい。警戒せずとも何もしません。」

黙ってじっと相手を見つめ返す。
質問には答えないまま。
冷静に相手を観察した。
何が目的だ?
雲忍である自分に一体何の用がある?
警戒するなと言われても無理な話だった。
何せついこの間に、同じ一族の忍からあからさまな敵意の篭った目を向けられたのだから。
尖った視線には人一倍敏感なのだ。
胸が抉られる思いにさせられる。
やがて再び相手の男性が続けた。

「俺は日向ホヘトと言う者です。ザジの先輩に当たります。」

ザジ。
その名前に思わず目を見開いた。
彼の先輩?

「この間うちの一族の者が、貴方に無礼な真似をしたようで。その事で謝罪を申し上げにと。」
「・・それだけですか?」
「ええ。他意はありません。」
「何故?貴方は日向の人間で、俺は雲忍です。本当にそれだけなんですか。」
「ええ。本当ですよ。信じて下さい。」

何も言わず、黙ってホヘトを見つめ返した。
無表情の顔を。
白い瞳を。
暫く沈黙が流れた。
探るようにホヘトの目を見つめる。
が、そこには何も映ってはいない。
警戒も、敵意も、憎悪も。
むしろこちらに好意的に接しようと努めている色が伺えた。
純粋な、混じり気のない誠意。
何の色も混じっていない、穏やかな色。
信じてもいいのか。
雲忍の自分でも?

「ザジから話を聞いたんです。貴方があの子に、色々教えて下さっていたのだと。
 お忙しいのに同じ感知タイプとして、あの子を指導して下さっていたのだと。」
「・・・。」
「貴方はザジの先輩になってくれた。だから俺は貴方を警戒しません。同じ後輩を持つ者として、貴方を歓迎しますよ。」

ピタリと固まった。
まじまじとホヘトを見つめ返す。
どうやら彼の言葉に嘘はないらしい。
彼は微笑んでいた。
穏やかに。
作り笑いでも何でもない、好意からの微笑みだった。
彼なら信頼しても良いのかも知れない。
彼が言った。

「少し、来てもらえませんか。」

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