□雲隠れ2
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空は一面雲に覆われている。
雲と雲の間から日の光が何本もの筋になって射し込んでいた。
日光は里にそびえ立つ山や高い建物を照らし出していた。
ちょうど雨が上がったところだった。
しっとりとした湿り気が辺りを満たしている。
あちこちに立っている電柱に張り巡らされた電線からは、ポタポタと雨水が滴っていた。
地面には所々に水溜りができており、雲に覆われた空が映っていた。

ひんやりとした空気を胸一杯に吸い込む。
冷たい気温が鼻を刺した。
ゆっくり息をつくと、ユギトは雨上がりの里を見下ろした。

「(久しぶりの雨だな・・・。)」

建物の縁に座り、立て膝をしながら下を眺めた。
今自分がいる場所は結構高い位置にある。
うっかり足を滑らせでもしたら、おそらく骨を折るでは済まないだろう。

『あまり身を乗り出すと落ちてしまいますよ。』

頭の中で突然声が響く。
普通の人なら気が動転してしまっているところだろう。
が、人柱力であるユギトにとっては当たり前のように毎日起こることだった。
驚くような素振りも見せず、ユギトは頭の中で声に返事をする。

「(平気だよ。私がそんなヘマすると思うか?)」

再び声が返ってきた。
上品で大人らしい女性の声だ。

『ですが、ここは屋根の上です。バランスが悪いし今日は少し風があります。気を付けないと。』
「(ホント心配性だね。私は落ちないよ。)」
『あなたという方は・・・。』

ハァ、という溜息が頭の中に響く。
やれやれ、という呆れの混じったその響きに、思わず笑ってしまう。

『ユギトったら、笑わないでください。』
「(ごめんごめん、悪かったよ。なんかアンタが保護者か何かみたいだったから。)」
『誰のせいですか。』
「(私のせいって言いたいのか?)」
『その通りです。』
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