企画用
□やきもち
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「ダーリンッ!」
「うわっ、なんだよリカ!」
ふう、と俺は誰にも気づかれないように溜息をつく。
見慣れているはずの後光景に胸が痛むのは何故だろう。
それはきっと、一之瀬が女子と仲良くしているから。
ズキズキ痛む胸を抑え、俺は水道へと走った。
*
「鬼道!」
「………ん?」
ゴーグルを外してばしゃばしゃと顔を洗っていれば、見慣れた顔がそこにあった。
何の用なのだろう、と思い彼に声をかける。
「どうしたんだ、豪炎寺」
「いや、鬼道の様子がおかしかったから……心配で追って来てみた」
変なところは鋭いな、と苦笑しつつ「なんでもない」と告げる。
ゴーグルに手を伸ばせば、その手は豪炎寺に遮られた。
「綺麗な目をしているな、鬼道」
「……?早く練習に戻るぞ。豪炎寺、お前は戻ってきたばかりだろう。次のエイリア戦も控えている」
そう言っても、豪炎寺は俺の手を離さなかった。
……こんなに物わかりの悪い奴だったか?
首をかしげたい気持ちを抑えつつ、あいている片方の手でゴーグルを取る。
「一之瀬、か」
「!」
ビクッと自分の身体が揺れるのが分かった。
「鬼道、感情が隠しきれていない」
そう言い放つ豪炎寺は何一つ顔色を変えない。
一体、何を考えているんだ。
ぐっと強い力で豪炎寺に引き寄せられる。このままじゃ抱きしめられる!?そう思った時、
「鬼道!」
愛しい声が俺を呼んだ。
大好きな、一之瀬の香りに包まれる。
「豪炎寺!俺の鬼道に何してるんだ!」
「ふっ、俺の鬼道?どの口がそれを言う。女子といちゃいちゃしていたくせに?なぁ、鬼道」
「!」
言いたいことだけ言って豪炎寺は去っていた。
*
ゴーグルをつけ、近くのベンチに一之瀬と腰をかける。
「…豪炎寺に何かされた?」
「いや、何も………」
しいん、と辺りは静まり返った。遠くでチームメイト達の声が聞こえる。
早く練習に戻らなければ監督に怒られる。
そう思いつつも、身体はいう事を聞いてはくれない。
「…………鬼道」
沈黙を破ったのは一之瀬だった。
「やきもち、やいてたって本当?」
「…………………少し、だけだ」
嘘はつけない。と思いながら本音を小さな声で呟く。
その声は一之瀬に届いたようで一之瀬は「そっか」と言った。
「嬉しい、鬼道がやいてくれるなんて。」
「……重く、ないか。男子の嫉妬なんて」
「鬼道なら大歓迎さ。鬼道は世界一可愛いから」
「な……っ、馬鹿者…」
ふっと笑えば一之瀬にキスをされた。
久しぶりのキスに鼓動は一気に高まる。
たどたどしくキスに応えていれば、一之瀬は唇を離して俺の耳元で呟いた。
「俺が好きなのは、鬼道だけだから」
その言葉に泣きそうになったことは、俺だけの秘密にしておこうと思う。
【やきもち】
(うまくいったな、豪炎寺)
(ああ、土門の言う通りだったな)
(にてもキスしてんぜ)
(……俺たちは練習に戻ろう)
(そうだな)
END