企画用
□笑顔
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「鬼道、可愛い!」
ある日、ふっと笑っていれば円堂が俺に向かってそう言ってきた。
可愛い、などという自分からほど遠い言葉に一瞬俺の頭はクラッシュする。
「か、わいいだと…?」
「うん。鬼道いつも悪役みたいに笑うからさ!断然俺はそっちの方がいいと思うよ!」
特に何も考えずに円堂はこう言っているのだろう。
そう思う事にして、俺は部室へと向かった。
*
「鬼道、ね、笑ってみてよ!」
次の日のまた次の日もこうして円堂に笑ってとせがまれた。
一体何事かと聞き返せば、
「笑った鬼道みたい!可愛いもん!」だそうだ。
「円堂…笑えと言われて笑えるもんじゃないんだ」
「え―…でも鬼道すっごく可愛かったんだぜ?」
「っ、その可愛いというのはよせ」
「本当の事なのに?」
「か、勝手にしろ!」
バサッとマントを翻し、練習へと戻る。
円堂もあきらめたらしく、ゴールの前で声掛けをやっていた。
まぁ、一時的なものだろう。円堂は一直線だからな。
ふう、と溜息をつき俺は練習に専念した。
*
「鬼道!笑って!」
円堂がそうせがむようになってから一か月がたった。
チームのみんなも円堂のあきらめの悪さに呆れていた。
「…円堂……」
いつも円堂は俺が独りでいるときにやってくる。
ふう、と溜息をつくと円堂がニコリと笑った。
「鬼道の笑顔好きだぜ。本当に可愛いもん」
「…可愛いというのは女子に使う言葉だぞ」
「え?鬼道のが可愛いよ?」
無自覚なのか、天然なのか。
円堂が好きな俺にそれ以上の褒め言葉はないというのに。
「ふっ、しょうがないやつめ」
「あ、笑った!!!!可愛い!キスしていい?」
「!?」
「いいじゃん。ね?鬼道」
いいだろ?とせがんでくる円堂を押しのけられるはずもなく。
キスの前に「なんで俺なんだ…?」と聞けば、
「鬼道が、好きだからだよ」
という返事が返ってきた。どうやら俺は彼には敵わないらしい。
【笑顔】
END