長編book

□03.すれ違い、傷つけあう
1ページ/1ページ






◇鬼道side



少し痛む身体をいさめながら、俺は部室でみんなと着替えていた。
するといきなり思春期によくある恋愛話へと話題が移ったのだった。



「俺は一緒にサッカー楽しめるならだれでもいいや」



円堂らしい答えだ。それを聞いて部室にドッと笑いが駆け抜ける。
それから順番に好みのタイプが発表されていく。

よくある光景だ。中学生なのだから。

でも俺は焦っていた。俺が好きなのは男だ。
そんなの言えはしないし、何せ豪炎寺もいる。好きな人は豪炎寺ですなんて死んでも言えない。

そんな中、俺に話題が回ってきた。




「鬼道ってどんな奴がタイプなんだ?」

「知りたいでヤンス」




じいっとみんなが俺を見る。
ど、どうすれば。どう切り抜ければいいんだ。





「………、真っ直ぐな人…だな」





あながち間違いじゃないだろう。
豪炎寺はいつでもサッカーに真っ直ぐだ。

円堂が「おお、鬼道らしいな」と言ったので安心したのもつかのま。




「じゃあ、どんな髪型の奴が好みなんだ?」





か、髪型!これは誤魔化しにくい。
興味ありげにまたみんなの視線が俺に集まる。





「あえていうなら、ショート…だろうか。しかし、特に髪型に好みはない」

「そうなんだ。じゃあ、豪炎寺は?」






切り抜けた。とほっと胸をおろす時間もない。
豪炎寺の好み…これはメモを取る気持ちで聞かなければ。

すると豪炎寺はいつもの顔でサラリと答えた。




「好みはない。」




な、なんだと!?
あっけにとられたのは俺だけではないらしく、みんながズルリとこける。

染岡が不満そうに「じゃあ、豪炎寺好きな奴いるのかよ?」と聞いた。




「ああ、当たり前だ。」




きっぱりと答えた豪炎寺に「誰?」という質問の嵐が飛び交うが豪炎寺は答えなかった。
すると、すぐに質問は収まり話は違う方向へとそれていったのだった。

しかし、俺はショックで耳に何も入ってこなかった。






豪炎寺に好きな人が、いるなんて。







知らなかった。知りたくもなかった。
好きな人がいないのならまだ期待も持てたというのに。


その後の練習で俺はミスを連発した。
「まぁ、こんなこともあるよな!」という円堂の言葉さえ俺の耳をすりぬけていった。


























「おい、鬼道」

「………豪炎寺?」




帰り道。豪炎寺に声をかけられた。珍しいこともあるものだ。




「一緒に帰ってもいいか?」




その豪炎寺の申し出に俺はコクリと頷いたのだった。







⇒NEXT

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ