長編book

□02.夜の俺と昼の君
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◆豪炎寺side



全ての処理を終え、俺は服を着る。
鬼道はまだぼーっと自分の部屋の天井を見つめていた。

チクリ、と胸に鋭い痛みが走る。

鬼道は今誰を思っているのだろうか。
行為中の鬼道の寂し気な瞳。俺を誰に重ねてみているのだろうか。


俺は必ず鬼道に「抱いていいか?」と聞く。それを鬼道が拒んだことはない。
そして、俺も行為自体を取りやめたことはない。



俺は、鬼道が好きだ。




最初は好奇心から「抱いていいか?」と聞いた。
すると鬼道はあっさり首を縦に振ったのだった。

そこからだ。

俺と鬼道の関係が狂ってしまったのは。好きだと言えなくなってしまったのは。
俺は鬼道とキスはしたことがない。身体を重ねた回数はもう数えきれないというのに。


自嘲気味に笑い、俺は顔を伏せた。


鬼道に好きだと言えればどれだけ楽なのだろう。
だけど、鬼道はきっと俺のことを何とも思っていないだろう。

もし、気持ちを告げ、それを拒否されてしまったら。


そう考えると、やはり気持ちを伝えることはできないのだった。






「鬼道、じゃあ俺は家に帰る」

「ああ。気をつけてな」

「身体、明日練習できるように激しくはしなかったが……明日辛いなら電話してきてくれ」

「わかった。また、明日な」






バタン、と無機質な音をたて扉を閉め、鬼道の家から出た。

俺はポケットからケータイを取り出す。メールも着信もなかった。
それを見て俺は溜息をつく。

俺と鬼道は電話とメールをしない。緊急の用事のときはしたりするが。

何度も鬼道にメールを送ろうと思った。
でも、夜の世界へと鬼道をひきずり入れてしまったことを思うと自分からそんなことはできなかった。


最初はただ隣にいられるだけでよかったのに。

いつ、いつ俺たちは道を間違えたのだろう。






(鬼道、好きだ……)





言えない気持ちを心で噛みしめ、俺は鬼道の家をチラリと見てから家へと帰ったのだった。





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