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□愛の証のエメラルド
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金の月が漆黒の空に輝く時刻、小さな探偵は鉄製の階段を行き急ぐように駆けていた。
踊り場に辿り着き息を弾ませながら、鈍い銀色に輝く大きな扉を勢いよく開く。
するとそこには、真っ白なシルエットが佇んでいた。
少年はゆっくりと「それ」に近寄り、外見に合わない不敵な笑みを浮かべ、口を開いた。
「もうオニゴッコは終わりだぜ?コソ泥さん」
少年らしからぬ声色に、白いシルエットは優雅に振り返る。
「怪盗、ですよ名探偵。いえ、これは「タイム」といった所ですよ」
にっこりと紳士の笑みを浮かべる怪盗に、小さな探偵は思いきり眉を寄せた。
それもそのはず、わざわざ己の誕生日にまで予告状を出してくるのだから。
前までは宝石の持ち主に予告状を出されていただけだったのに、最近は自分にまで出されるようになっていた。
とはいえ、己の誕生日を知らないはずだからわざとではないだろうが…。
…何故だか分からないが、怪盗は自分と対決したいらしい。
いや、からかいたいだけかもしれないが。
そう思うと段々イラついてきて。
しかも、今宵は己の誕生日パーティーをして、散々に騒いだうえでの対決。
あの一件から幼くなってしまったこの身体では、やはり体力などが持つわけもなく。
小さな探偵は若干声をあらあげ、真っ白な怪盗を見上げた。
「あーそうかよ。ほら早く宝石を返せ。その様子じゃあビックジュエルではなかったんだろ?」
白い怪盗はビックジュエル以外は自分に毎回返してくれるようなので、思わず急かすように尋ねる。
ビックジュエルが見つかったら、いくらポーカーフェイスなこの白い怪盗でもいつもの態度ではいられないはずなので、断言して平気だろう。
言い方が悪いのはコイツのせいだから、気にしない。
「そうですね…違ったようです。…まあまあ、そう急かさないでくださいよ」
肩をすくませながら革靴の音を立て、こちらに近づく怪盗に少年は毛を逆立てた猫のように、サファイアのように蒼い瞳を吊り上げて威嚇する。
そんな少年に怪盗はスラリとした腕を伸ばし、己の胸に納めた。
頭の回転の早い小さな探偵は、四肢をバタつかせながらも、現状をいかに上手く躱すかを考える。
しかし、この怪盗相手に成す術もないかもしれない。