携帯獣
□星空のステージ
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視界いっぱいに広がるのは、月が金に輝き、星が散りばめられている漆黒の星空――。
ゴールドは子供のように目を輝かせながら声をあげた。
「すげ―っ!!めちゃくちゃキレイじゃないスか!!」
然程興味のなかったことではあるけれど、ここまで凄いとそんなことは吹き飛ぶわけで。
そっか、あそこだけ明るかったのはこれのおかげか。
疑問も解決でき澄んだ空気のせいか、テンションは上がるばかりで。
満天の星空を仰ぎ、目に焼きつけた後ゴールドはレッドを振り返った。
「ゴー、誕生日おめでとう!」
すると、輝かしい笑みを浮かべながら今日一番欲しかった言葉が、澄んだ空間に放たれた。
しかし先程の出来事や、満天の星空にはしゃいでたせいでそんな大事なことを、忘れていて…。
あんなに朝から振り回されたのにも関わらず、憎たらしいどころか今は嬉しさばかりが募って。
先輩は、ズルい。
ズルいっスよ、不安にさせるのにそれを覆ってしまうくらい、幸せを与えてくれるんだから。
身体中の血が沸騰したかのように、顔も首も耳も心まで熱くなる。
恥ずかしい、こんな顔見られてたまるか!
顔を逸らすと、後ろから強く抱き締められた。
だから、それ反則!
悪態を心の中で吐くも、鼻いっぱいに入りこむ先輩の匂いや、先輩らしいあったかい体温や、トクトク鳴る心臓の音に、絆されてしまって。
「誕生日プレゼント、何にするか悩んで…穴場だって知ったから、ゴーに見せたかったんだ。…気に入ってくれた?」
耳元でバリトンで囁かれ、肩を跳ねさせながら満天の星空を仰ぐ。
ワカバタウンやマサラタウンでも、星空は一望できるけれど、この高い所から望める星空はもっとキレイで。
首を力強く縦に振った。
「当たり前っス!先輩、ありがとうございます…んっ」
顔だけを後ろに向け、優しい赤の瞳を見上げると唇を重ねられた。
いつも通り触れるだけのキスをし徐々に深くするのかと思いきや、最初から深いキスで。
思わず目を見開けば、更に優しく目を細められた。
「んんっ…ふぁ、先ぱ…ッん…ッ」
舌を絡めとられ、唾液を注がれ歯列をなぞられて…。
先輩のキスはいつも、腰砕けになっちまう。
明らかに自分より上手くて悔しくなり、自分から率先してやったら呆気なく飲み込まれて…。
いつも、先輩には敵わないのだと再認識した記憶がある。
それは、嫌なわけでも憎いわけでもなんでもなくて。
逆に、嬉しく思うんだ。
静寂に響く自分の上擦った声に、頬が熱くなる。
すると酸欠かと思ったのか分からないが、名残惜し気に舌を吸われながら唇を離された。
「ゴー…好き、大好きだよ。…愛してる」
自慢の前髪を掻きあげ、晒された額にキスを落としながら微笑まれて。
更に高鳴る心臓を抑え、自分も応えようと口を開き、先輩を見上げた。
「俺も先輩が好きっスっ……」
あぁでも、やっぱりこれが限界。
愛してるだなんてハードル高いの、心から思ってんのに言えない。
素直になれない自分が嫌で仕方ないし、先輩に申し訳ないとも思うのだけれど。
けれど、先輩はそれを分かってくれてるみたいで、笑みを深めながら俺をまた抱き寄せた。
「ゴー可愛い…。ホント、生まれてきてくれてありがと。俺、幸せだよ」
可愛くなんてないと反発しようとするも、優しい声でンなこと言われちまったら言えるはずもなくて。
恥ずかしさでいっぱいいっぱいだから、取り敢えず「俺もっス」と頷いた。
それに「そっか」とだけ笑い、柔らかく髪を撫でながら、詮索しない優しい先輩に、愛しさを感じて。
甘えすぎだと分かってはいるんだけどよ、…ついそうしてしまう。
たくさんの星が散りばめられた漆黒な星空のステージの下、俺達は手を繋ぎあって歩んでいく。
来年も再来年も、星空のステージの下で先輩の傍にいられますように―。
恥ずかしい願いかもしれないけど、心から願っているんだ。
金の瞳が赤の瞳を見上げたその時、星空のステージにキラリ一つ、星が瞬いたのだった―。
―Fin―
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