携帯獣
□星空のステージ
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ジャリジャリと音を立てる小石が転がる道を踏み分け、暫く歩んだ先には急すぎるうえに岩肌がごつごつしている坂が聳えていた。
天辺を仰いでも更に続いているように見え、顔の筋肉を吊り上げながら、繋がる手に力を無意識に込め、隣にいる恋人を見遣る。
すると、何か対策があるのだろうレッドはモンスターボールを手にして「行け!ゴン!」と食いしん坊で有名なカビゴンを出した。
相変わらずの巨体に、ゴールドは圧倒されたように声を立てずにジッと見つめる。
英雄とも言われるくらいのレッドのポケモンも、やはりどこかそのような風格があった。
やっぱり先輩のポケモンだなあ、とゴールドはぼんやり思った。
しかし、カビゴンでどうするというのだろう。
この巨体でこんな急な坂を登れるとは、とてもじゃないけど思えねぇし…。
ゴールドが思案顔をし、不安になってると思ったのかレッドは「大丈夫!ゴンに任せろって!」と太陽のように明るい声色で言った。
その一言で、ゴールドの一抹の不安やら何やらは吹き飛び、二つ返事をする。
「ゴー乗れ!」
すると俺の返事に満足したのか、腕をグイッと引っ張られて柔らかい腹に乗せられた。
まさか、このまま進むんじゃ…!?
思わず目を白黒させていると、後ろからギュッと抱き締められた。
密着し、先輩の匂いやら体温やら心臓の音まで全て伝わって慣れているはずなのに、心臓が跳び跳ねてしまう。
俺の速すぎる心臓の音まで伝わってしまうのではないか?
思考を巡らせるも、先輩の威勢のある掛け声により、それは消え去る。
「行けっゴン!ロッククライム!!」
先輩お得意のビシッ!と指を指しながらポケモンの名を呼べば、カビゴンは糸目をどこかキリッとさせ、想像通りごつごつしている坂を駆け上がった。
あまりにものスピードに振り落とされそうになるが、先輩が強く抱き締めてくれてるからだろう、それは回避された。
刹那、坂の天辺に辿り着き降りた二人は安堵の息を吐く。
レッドは労るようにカビゴンに声をかけるとモンスターボールにしまい、ゴールドに向き合った。
「ゴー怪我してないか?」
ふんわり、と優しい炎を宿した瞳を細められてゴールドは金の瞳を僅か見開きながら、首を何度も縦に振る。
すると、レッドは「そっか」と肩の力を抜きながら笑いゴールドの自慢の髪を、絶縁グローブを外してからそっと掌で撫でる。
わざわざ外してからのことに、柄にもなく嬉しくなって愛しさを感じて。
あぁやっぱり先輩が好きなんだと、今更ながらも思った。
「よっし!あと少しだからな!」
またもギュッと手を握られ、肩を跳ねさせるゴールドを余所に、レッドは笑みを浮かべて一条の光の射す出口へと向かう。
辺りはこんなに真っ暗でそれも現在の時刻のせいでもあるのに、何故そこだけ明るいのだろう?
思考を巡らせる間に出口に着いていたらしく、足を踏み入れた。
刹那、俺は言葉を失ってしまった。