携帯獣
□星空のステージ
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照りつける太陽が天高く登る時刻、ゴールドは岩肌に腰を掛けながら少しばかりブスくれていた。
それは、大事な自慢の前髪が極らなかったとか、大切なクルミちゃんのラジオを聞き逃してしまったとかではない。
要因をチラリと横目で見るも、俺の気持ちを余所に平然といつも通りに笑っていて。
今日が何の日でいかに大事かと知っているはずなのに、何も触れてこない恋人にイラついてしまうのは致し方ないだろう。
それと同時に、堪らなく不安に駈られる。
知らないはずはないわけで、敢えて触れてこないのは、レッドにとってどうでもいいことなのかもしれない。
普段ネガティブになりにくいゴールドとて、恋人が関われば話は別なわけで一抹の不安に駈られる。
力なく見上げた空は予報と違って淀んでいて、暗雲がたちこめていた。
今日の修行を終えて、空も漆黒に染まった頃。
未だに何も触れてこないレッドを一瞥すると、ゴールドは先に就寝しようとテントに足を向けていた。
しかし、無邪気な笑顔と明るい声色に呼び止められそれは叶わず。
「あ、ゴーっ!ちょっと着いてきてくんねっ?」
どこに?と尋ねる間もなく、近づいてきたレッドに腕を取られ、ゴールドは訝しげるも首を縦に振った。
すると、花が綻んだような笑みを浮かべながら、軽快な足取りで今まで行ったことのない道を歩んでいく。
通り道としてしか使っていなかった洞穴に足を踏み入れると、静寂にスニーカーの擦れる音が響いた。
普段は昼にここを通り、一夜を先程の場所で過ごすため、翌日の昼にここを通り下山している。
即ち、夜にここを通ったことはなくて。
当たり前かも知れないが、一条の光もなく閑散としているからか、底知れぬ恐怖が襲って。
若干後込むゴールドを余所に、レッドは懐中電灯をどこからか取りだし明かりを点ける。
少しばかり見渡しがよくなったが、やはり不安は拭いきれないわけで。
思わず繋がる手を強く握った。
すると、レッドは声を立てずに笑い互いの指と指を絡め口を開いた。
「大丈夫だよ、ゴー」
どこに行くかも知らされていないと言うのに、恋人に…大切な人に優しく慰められるだけで安心してしまって。
悔しく思うも、それを嬉しく思う自分もいて…。
よく顔が分からないのをいいことに、口元に笑みを浮かべた。