携帯獣
□金と銀のペアリング
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己の名と同じ色の月が昇る熱い夏の夜、俺と己の名とは正反対な恋人は俺の隠れ家にいた。
持ち込んだラジオを聞きながら二人して転がり、のんびりとしていたが、"そろそろ本題に入ってもいいだろう"と考え、愛用のビリヤードのキューをさすっている恋人に声をかけた。
「ゴールド、ほら。受け取れ。これ欲しかったんだろ?」
俺は数日前から用意していた、中身を詰めた、黄色の袋を渡した。
同い年なのにも関わらず、幾分か幼く見える恋人は目を自分の名と同じ色に輝かせた。
「さ、サンキュー!!オマエっ、これ難しくなかったのかよっ?」
袋から、ゴールドが好きなアイドルの歌入りのテープと新しいキックボードを手に取り、俺にコインのように瞳を輝かせる恋人に軽く苦笑いを溢してから意外と柔らかい黒髪をそっと撫でた。
すると、「へへっ、サンキュー」と普段はそんなこと口にもしてくれないくせに、ニパッと笑い自分から抱きついてきた。
…そんなこの馬鹿を可愛いと思う俺のほうが馬鹿だな。
一人内心で呟いていれば、「なあなあー」と甘えた猫のように頬擦りをしながら、持ち前の金色の瞳を輝かせて俺を見つめてきた。
「なんだ?足りないか?」
そう、今日は金色な恋人の誕生日。
なので先程プレゼントを渡したのだが、足りなかったのだろうか。
首を傾げ、相変わらず爆発している前髪を撫でれば「くすぐってェよ」と今は沈んでいる太陽のような笑顔を見せた。
…本当に可愛くて、愛しい。
恋人のいとおしさに瞳を細めれば、「…違う。ものじゃねェよ…、…シルバーが、足んねェんだよ…」そう言って、ふにゃりと笑む恋人に、心臓が高鳴った。
…コイツの無邪気さがあまりにも可愛くて。
そして若干、イラついてもくる。
俺は「それなら、いくらでもやる」と喉奥から笑って、啄むようにして重ねた。
すぐ離せば「足りねェ」とまたもや微笑まれた。
まったく…、…可愛いすぎる。
幸せのため息をひっそりと吐いてから、柔らかい黒髪に指を絡めながら、口づけを深くした。
月明かりに照らされる、金色のコイツの表情に囚われる。
薄く赤く色づいた頬に、潤む金色の瞳に、熱い吐息。
コイツの全てに囚われて。
「なあ、シルバー。…プレゼント、サンキュな。」
珍しく自ら、腕を己の首に回し、抱き付いてくる恋人に、「まだ、あるぞ?」と耳にかじりつきながら囁けば「…それが一番、嬉しいっつーのっ」とまるで太陽の下(もと)で輝く向日葵の花のように眩しい、とびっきりの笑顔を浮かべた。
…深夜のように、黒檀の闇さえも照らす恋人に、一体幾度、救われたことだろう。
暗闇の底で這いつくばっていた俺に手を差しのべてくれたのは紛れもなく、オマエで。
この孤高に染まっていたと思い込んでいた世界を覆したのも、オマエで。
愛しい、愛しい。
この、無邪気でどうしようもない馬鹿な恋人が。
堪らなくなり、強く抱き締めれば「オマエを、ちょーだい?シルバーちゃん。」と微笑まれた。
「…生まれてきてくれて、ありがとう」
溢れる想いを、シンプルに述べれば苦笑いながらも嬉しそうな声色で「それを言うなら産んでくれたかーさんにだろー?」と笑われた。
…ならそれは母の日にでも言ってやるよ。
そう返せば何故かクスクスと笑われた。
「…上等。…いくらでもやる。ゴールド…」
深い金色の瞳に強い意志を秘め、唇に弧を描いている恋人にそう囁き、唇を交えて、銀の月から放たれる金色の月明かりの中、深く交じりあった。
漆黒の宇宙(そら)には銀の月と、今は眠っている金の太陽が輝いていた。
ーー眠りについている二人の互いの指にはそれぞれの名の指輪が輝いていたのだったーー。