鬼畜眼鏡
□そんな君が、
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夏も終わり、秋が深まる夜更けに差し掛かるなか、今日(こんにち)一つ歳を重ねた私は、未だに気恥ずかしそうに俯いている恋人に小さな笑みを溢した。
数日前、彼は何をあげればいいのか、或いはどんなことをしたらいいのか分からなかったのか「何がほしい?」と尋ねてきた。
そんな彼に私は「なら、君からキスをしろ」と唇に歪んだ笑みを浮かべながら言い放った。
勿論、彼は男らしい眉を跳ねさせながら林檎のように真っ赤にしたものだった。
そして、当日。
未だに顔を微かに赤らめて俯いているところ、プレゼントは用意していないのだろう。
そう、「物」は。
私はレザーソファに腰を掛けながら彼を一瞥した。
敢えて私から声をかけてもいいのだが、顔を微かに赤らめて気恥ずかしそうに目を泳がす彼が可愛いので、しない。
一瞬だけ視線が鉢合わせれば、さっと目を逸らされた。
「…み、御堂っ」
上質なレザーソファに身を沈めている私の姓を呼びながら、決心したのであろう、じっと顔色を窺ってくる彼に唇に微か弧を描きながら「なんだ?本多」と口を開いた。
「っ…、目、…目ェ閉じろ…よ」
羞恥からであろう、頬を更に赤らめながら私の腕をいつもよりも明らかに弱い力で、掴んだ。
……そんな可愛い表情(カオ)をして言われても、私には寧ろ「閉じないで」と強請っているように聞こえる。
…なんだ?可笑しいやサディストと言いたいか?…今更だ。
心中、笑いながら「分かった」と目をほんの僅かに開きながら頷く。
彼はよほど緊張しているのか、私のその行為には気づかないうえに、掴む腕から震えと熱を知らせてくる。
暫くして、だ。
微かに乾いていた私の唇に、同じように微かに乾いている「それ」が重なったのは。
わざとらしくゆっくりと開いてやると彼は顔を茹で蛸のように真っ赤にしながらも、私の目を真っ直ぐに見据えて「誕生日おめでとう、御堂…」と紡いだ。
仕事では不器用さを見せないというかのように、真っ直ぐに突き進む彼でも、私の前ではこんなにも不器用で。
そんな君が、私はとても愛おしく感じて。
私は心を温めながら「愛してる」と真っ赤な彼に囁くのだった。