鬼畜眼鏡
□Blossom shower
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ーふわり、と甘く優しい桜の香りが鼻を掠めた。
春のひだまりの中、私は今恋人と一緒に行きつけの公園に出かけている。
視界いっぱいに広がる美しく咲き誇る大輪の桜に、自然と唇が綻ぶ。
何も会話を交えないまま、何かに誘われるようにして足を進めていれば、隣を歩いていたはずの恋人が、少し先を歩んで立ち止まり、振り向いた。
「…桜、キレイだよなあ」
天を仰ぎながら、恋人がポツリと感慨気に呟いた。
瞳を細目ながら、唇を綻ばせただじっと満開の桜を見つめる恋人の表情に、胸が高鳴った。
…いつの間に、コイツはこんなに大人になっていた?
この恋人とは付き合ってもう、一・二年は経つ。
出会い初めは、コイツも私自身もいい年だと言うのに、子供のような態度をとっていた。
けれど、今はどうだ。
…いつの間にかコイツは大人になっている。
外見、ではない。
中身が。
…あぁ、コイツはきっと、もっとずっと、変化し続けるだろう。
今よりも鮮やかに、美しく、荘厳に、麗しく。
それはまるで、桜の花びらが何度も美しく咲き誇るように。
「…本多」
胸に込み上げる激しい衝動と愛しさに、強く彼を抱き抱いた。
「誕生日、おめでとう」
少しだけ背伸びしながら、彼の耳元にそう囁けば、彼はまるで光のように眩しく、あたたかく笑った。
「サンキュ。御堂。…っ、御堂、…俺、オマエが大好きだぜっ…」
…あぁその顔は反則だ。
愛しい人が顔を真っ赤にしながら笑っていて、己を抑えられる奴がいると思っているのかこの馬鹿は。
私は自然に唇が綻ぶままに、彼の唇を引き寄せて重ねた。
「んっ、…っ、御、堂っ…っ」
優しく、軽く唇を重ねては離し、また重ねる。
十二分に彼の味を楽しみ、彼の唇を離し、そして真っ直ぐに見据えた。
「私もだ。…ずっと愛している、本多…」
太く、硬く、男らしい厚い手に口づけを落とし光に照らされる桜が舞う中、愛を囁いた。
風に舞い、太陽に照らされる桜はまるで、光のシャワーのようで。
桜が舞う、あたたかな春の中でそっと恋人の手に、自分の手を絡ませ、何度も愛を囁いた。
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