無N

□リア充御免!
1ページ/1ページ

※悟空1年、三蔵2年




「私、今日という日を楽しみにこの一ヶ月を過ごしてきたのよ」


席に着くなり前方に座っていた妲己がさぞや不愉快そうに言った。


「今日?」
「ホワイトデーよ!!」

目を吊り上げる彼女に成る程と手を叩く三蔵。

「なに?」
「登校中とか、下駄箱に、知らない男の子からのプレゼント」

サイドバックを開けて見せると中には溢れんばかりの包みの山。更には机の中にまで。妲己は大きくため息を吐いた。

「流石校内一のアイドルね〜」
「誰が…アイドルなの?」
「……」

無垢な瞳に再びため息を吐くと、何でもないわと首を振った。


「妲己さんはなんで怒ってるの?今日が楽しみだったんだよね?」
「…お返しを期待してたからチョコレートあげたのに!太公望さんったら何もくれないのよ?!あり得ない!!」
「そ、そうなの」
「あの人のことだから高級な物期待してたのに…大損だわ!!」
「きっと照れてるんだよ。皆がいなくなったら貰えるかもよ?」
「照れる…?あの人が?ないないない!」

膝を叩いて笑う妲己。なんだかんだお似合いの二人に三蔵は微笑んだ。


「それより、あんたこそ貰ったの?お返し」
「え?これのことじゃなくて?」
「違うわよ。ここにあるプレゼントはチョコレートあげてない奴等が勝手に寄越したやつでしょ」
「う、うん?」
「あんたがあげた奴からよ!」
「……?」


鈍い友人に痺れを切らし、妲己は声を張る。

「馬鹿猿よ!」
「悟空のこと?」
「それしかないでしょーが!」
「悟空は馬鹿じゃないもん!」
「はいはい馬鹿じゃないです、猿でした!あいつには勿論あげたわけでしょ?」


一ヶ月前、可愛く包まれた甘い箱を手渡した時。柄にもなく照れていた問題児の後輩。その甘ったるい記憶を思い出して三蔵は頷く。

「うん」
「貰った?!」
「まだ会ってないよ」
「はぁ?!…ってよく考えたらきっとまだ学校に着いてすらいないか」
「そうだね…」
「…まさか忘れて寝てんじゃないでしょうねあの阿呆は?!」
「…悟空…照れ屋さんだから何も用意してないと思うよ」

苦笑いしながら呟く三蔵。妲己はそのどこか寂しそうな瞳を見つめるとそっぽを向いた。


「今日中に何も寄越さなかったら別れなさい」
「え?!」
「そんな愚か者と一緒にいちゃ駄目よ!」
「で、でも…」
「リミットは部活が終わるまでね!」
「嫌よ、私ずっと悟空と一緒に居たい…」


(…女の私でもドキッとするわ)

彼女にこんな言葉を言われたら男であれば誰もが卒倒するだろう。もしもこの友人を泣かしたら間違いなく血祭りにあげてやろうと細く微笑む妲己だった。



「先輩」

胸を擽る低い声に二人は振り向く。

「ご、くう!」
「!!」

扉に寄りかかり、手をこまねく悟空。唖然とする妲己を残して三蔵は駆け寄った。


「おはよう、悟空!」

微笑みかけると悟空は曖昧に頭を下げる。

「どうしたの?」

膨らむ期待を隠しながら尋ねた。

「どうしたのって…!」
「?」
「相変わらずだな。切り出すの嫌んなるぜ」
「ご、ごめんね。そんなつもりじゃ…」
「今日一緒に帰ろうよ」
「!!」

壁に腕をつき、三蔵に覆い被さるよう見下ろす悟空。三蔵はこれでもかと瞳を広げて停止してしまった。

「そんなに驚かなくても」
「だって…そんなこと、わざわざ」
「…あれっすよ、その、今日はちゃんと真面目に部活出るからってこと。だから、一緒に帰ろって」


その高い身体能力からエース的な存在であるものの、滅多に顔を出さない幽霊部員。そんな面倒くさがりの悟空が最近部活に出るようになったのは三蔵のお陰だった。
と言うよりも、期待してくれる彼女を悲しませたくなかったからだ。

週2ペースだが、顔を出した日は必ず二人で帰っていた。

チョコレートのお返しと言わないところ、特別なことではないのに改めて念を押すところに、どうしようもない愛しさが込み上げる。


「うん、帰ろ!」

先程まで心を支配していた心配もどこかへ消え去った。少しでも彼を疑った自分に腹が立つ。


「やっぱり…私、悟空が大好き」
「な、なんすかいきなり」

嫌そうに顔を背ける照れ隠し。

三蔵は教室内へと振り向くと、妲己に叫んだ。


「妲己さん!やっぱり悟空は照れ屋だったけど、忘れてなんかなかったよ!!」

面白くなさそうに妲己は口をひん曲げる。


「妲己ィ?」

途端に表情を険しくさせ、怒鳴った。

「お前余計なこと言いやがったのか!」
「うるさーい!なによ!あんたがホワイトデー気にしてるとか…生意気よ!!」


なんとなく状況を読んだ悟空はニヤリと口角をあげる。あたふたする三蔵を後ろから抱き締めた。


「な…っ?!」
「ごっ、悟空!」
「はっ!甘かったな妲己」
「なによ!」
「俺はね、先輩が絡むと全てが法則通りにいかなくなんだよ」


「この人だけは、特別なの!!」


三蔵の小さな顎を掴むと、遠慮なくその艶々な唇に口付けた。




【 リア充御免!! 】


「キィーー!!見せつけてくれるじゃないのこの馬鹿猿ー!!」
「…へへっ。先輩チューした後って必ず真っ赤になるよな。超可愛い…」
「私の話を聞けーーー!!!」
「だ、だって…ドキドキするから…」
「あ〜やっべぇ!!誰にも渡したくねぇ!」
「私は悟空から離れないよ」

「くたばれリア充ゥ!!!」


.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ