無N

□女カ家編
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「子坊主、」
「!」

角を曲がるとオジサンがそびえ立っていた。太公望は一瞬顔をヒクつかせたが、腕を組んで言い放った。

「わたしの名は坊主ではない、老いぼれ」
「我輩の名も老いぼれではない、子坊主」
「…ふん、相変わらず口の達者な老人だ」
「御主もな…」


ピリピリとした空気を漂わせ、それとなく睨み合う二人。先に口を開いたのはオジサンだった。

「頼みがある…」
「ほう…珍しい」
「手を貸してほしい」
「ふふ…わたしは健全な学生の身分だ。お前の様な老いぼれと戯れる時間は…」
「新しい釣竿を買ってやろう」
「全知全能たるわたしに任せていただこう!」

キラリと瞳を輝かせる中学生にオジサンはニタリと微笑む。

「悟空と卑弥呼を連れてくるのじゃ」
「お、お前…まだあの小学生達を追い回していたのか…!」
「これは…オジサンの使命なのだ」
(…孫にしたいだけであろう)
「今更人頼みとは…また自分で捕まえれば良いだろう?」
「監視が厳しくなったのじゃ。流石の我輩でも突破は難しい」
「そうか、だから腕を骨折しているのか」

先程から気にはなっていた痛々しい左腕のギプスの理由を理解し太公望は色白の顔をより一層白くした。


「手伝ってやっても良いが…犯罪に手を染めるのは御免なのだが」
「安心せい。御主の仕事は奴等を家から引っ張りだすだけじゃ」
「一番佳境のところじゃないか!」
「一緒に戯れるのを理由にすればよい」
「わたしが小学生と遊ぶように見えるのか?その目は節穴じゃないだろうな」
「釣竿が欲しくはないのか?」
「全知全能たるわたしに任せていただこう」

胸を張る太公望にオジサンしてやったりと口角を上げると腕を引っ張って促す。


「よし、では早速行くのじゃ」

「どこへだ?」

「「!!!」」


冷たい声に恐る恐る振り向くと、スーパーの袋をぶら下げた女カが仁王立ちしていた。ゴクリと二人の喉が鳴る。カツンカツンと近づくと、太公望の腕を掴んでいたオジサンの手をゴキリと握り潰した。

「あぁああああ〜…」
「…坊や。一体なにをしているのだ?」
「その、えっと、」
「学校帰りは真っ直ぐ帰宅しろと口が酸っぱくなる程言い聞かせた筈なのだが」
「いや、だからわたしは悪くない!」
「…ほう」
「清盛が…その…新しい釣竿をやるから手を貸せ、と…」

バツが悪そうに頬を掻く太公望。女カは目を見開くと痛みで転げ回る清…オジサンの元へ歩み寄った。

「…何をさせるつもりだった?」
「ふはは、誰が公言しよう!」
「孫悟空と卑弥呼を連れ出せと」
「小坊主ぅう空気読めぇぇえ」
「貴様ぁ…私の坊やに犯罪者への第一歩を歩ませようとしたのか…!」
「いや、そういうつもりでは、」
「その上、学生を物で釣るとは…下衆の極みめ…ッ」

禍々しいオーラの女カに流石の太公望も止めにはいる。

「ま、待て女カ。一旦落ち着…」
「しゃぁあらっぷ!!!」
「っ」びくっ


女カはスーパーの袋からネギを取り出すとオジサンに接近する。身の危険を案じたオジサンは後退りするが、女カの冷たい微笑みがそれを捕らえる。

「丁度よかった…」
「?!」
「最近、小児を狙う卑劣な輩がいると自治会で問題視されていてな…」
「!!」
「つい先日も苦情があったのだ…会長の権力で始末してくれ、と?」
「ま、待っ」
「天誅ぅっっ!!!!」

どかべしぃいいっ

ぎゃぁああああ



【 女カ家編 】


「おーう、女カと坊主じゃないか!偶然じゃなぁ」
「今日は早いな」
「仕事が早く片付いたもんでのう!」
「そうか。丁度よかった、乗せろ」
「うむ。…どうした坊主?はよ乗らんか」
「わ、分かっている…」
「顔色が悪いぞ、風邪でも貰ってきたか!」
「いや、その…」
「坊や、風邪薬ならあるぞ」
「……あぁ」
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この日太公望くんは女カと目を合わせることが出来ませんでした。そして、オジサンは…まだまだ、諦めない…。

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