無N

□ハートに縄を
1ページ/2ページ

オロチ2(トウ水の戦い)ネタバレ注意!


はっと気がついた時には既に遅かった。鮮やかな布が瞬く間に身体中を滑り、自由を奪う。そこから漂うのは殺気でも妖気でもない、純粋な愛情。掴んでいることすらままならない如意棒をドスンと地面に落とすと、唸り声を上げた。


「お師匠様ぁ…!」


振り向くと目の前に眉目秀麗なる顔。後方へと倒れ込む二人のかわりに部下達が野太い悲鳴をあげた。

「いってぇ〜!」
「ごめんなさい、つい」
「〜もう!」

笑顔で謝られたって嬉しくもなんともない。悟空は顔をしかめて盛大なる溜め息をついてしまった。


「帰ろ!」

無垢な笑顔を向けられる。周りの事を読めず、可愛い弟子のことしか見えていない師匠。前例を知る部下達はこれ以上上司に関わられちゃ堪らないと三蔵を威嚇し始めた。だが三蔵は渡すものかと悟空を抱擁する手に更なる力を込める。

それらを眺めている内に浮かんだ作戦に悟空は目を細めた。


「あーあー、いいから、大丈夫だから下がってなお前ら」
「し、しかしっ!」
「…お師匠様、逃げねぇからさ、一回この布ほどいてよ?」
「…ほんと?」
「ほんとほんと」

しゅるしゅると布が外される。瞳を光らせた悟空は三蔵に抱き着いた。ぎょっとして部下は固まる。

「ご…悟空?」
「…うきー…」
「どうしたの急に?」
「…なぁ、お師匠様」
「な、なあに?」

甘えた声や手つきに感激しつつもあたふたする三蔵は、悟空のいやらしい笑みに気付けなかった。


「……」
「?」
「…大人しく…捕まれ!!」


ぴかっと閃光を発したかと思うと三蔵の身体中には既に太い縄が巻かれていた。部下から歓声があがる。


「はっはっはー!!大成功ー!」
「うぅっ」
「ウキキッ…その縄、ただじゃほどけねぇ上に切ることも出来ねぇ!…そうだな…」

キョロキョロと辺りを見回し、部下内の一人の肩に今だ光る掌をぽんと乗せた。

「え?」
「お師匠様の縄はお前に託す!」
「??」
「あの人が解放される時はお前の最期だ」
「えっ、えー?!」


クスクスと笑いながら三蔵の前に戻る。半泣きの青い瞳がこちらを見つめる。

「すまんね、お師匠様?」
「…騙された…折角、悟空が子供の様に甘えてきたのに…くすん」
「え、そこ?」


へたりと座り込む三蔵を尻目に悟空は叫んだ。

「よーし、じゃあこの人を頼む。絶対ぇ逃がすんじゃねぇぞ」
「「はい!」」
「それと、怪我とか負わせたらあれだからな、本当の意味でクビにするからな」
「「…はい…」」

「孫悟空様!」
「あ?」
「先程捕まえた者は…」
「あぁ泣き黒子野郎ね……ってそりゃ別々に捕獲しとくに決まってんだろーが!!」
「で、ですよね」

鋭い牙を剥く上司にペコペコと頭を下げ兵は走り去った。


三蔵は頬を膨らませ暫くは様子を見ていたのだが、飄々と事を運んでいくズル賢い弟子に見切りをつけ、意を決した。
悟空の緊箍児を睨み付ける。
手を合わせることこそできないが経の言霊だけでも十分効果はあるのを三蔵は知っていたのだ。唱えたくはないそれを唱えるべく、口を開く。

「ーー」
「おっと、そりゃあナシだぜお師匠様」
「!」

だが間一髪感付いた悟空の手によって三蔵の口は塞がれ制されてしまった。無念、三蔵は抵抗するのを諦めた。


「それじゃーなお師匠様」
「あっ悟空ー…!」



その後、三蔵や凌統が解放され五衛門と秀吉も加わった『新・西遊記』メンバーによって痛い目にあうことを、意気揚々に飛び立つ悟空はまだ知らなかった。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ