無N
□チョコっとの愛を君に
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卑弥呼は小さなピンク色の包みを片手に廊下で一人溜め息を吐いた。
妲己に茶化されながら作った初めてのチョコレート。
そもそも男と関わること自体を好まない卑弥呼にとってバレンタインという行事は何の意味の成さない、寧ろ鬱陶しいだけのものだった。
今までも育て親である妲己へ買ってきたチョコ渡すだけで女友達にすらあげたことがない。
どんなに周りが盛り上がろうと皆さんどうぞ御勝手に、というのが卑弥呼の見解だったのだ。
…だったのだが。
脳裏にチラつくのは不敵に笑う先輩の顔。
(好きちゃう、ただの感謝や!)
卑弥呼が異性の中でここまで親しく付き合ったのは悟空だけ。
周りの友人が恋に恋し始めれば、それは勿論同じ歳の卑弥呼に影響がないわけはなく。それなりに意識し始めてしまうものだった。
ただ問題は。
「なんっで高2やねん!!」
卑弥呼の怒号に道行く生徒が肩を震わす。
「だって阿呆やん!3歳差とかありえへん!」
ぶつぶつと呟き宛もなく歩き回る。
庭に続く廊下にふと視線を寄越すと、お目当ての赤髪が女子生徒と向き合っていた。
卑弥呼はこれから何が始まるかなど容易に想像出来てしまった。
(なんや…意外とモテるん…?)
嫌な気分とは裏腹に足は動き出し、黙って柱の裏に隠れる。
高1用の校章を付けた生徒はサラサラの髪を弄りながら後ろ手に持っていた小さな包みを手渡した。
「あの…これ」
真っ赤になって俯く。悟空は軽く礼を言うとそれを受け取った。
(…チョコ)
「…私、先輩のこと…ずっと」
(……?!)
「好きでした…付き合って頂けませんか」
決死の告白。卑弥呼は息を飲んだ。
(…付き…合うん?)
(返事、は…)
「……」
暫しの間。
悟空はゆっくりと切り出した。
「…あー…気持ちは嬉しいけどよ…」
「…っ」
「ごめんな」
どこか切なげに笑う悟空に少女は小さく「そうですよね」と呟くと、頭を下げて勢いよく走り去ってしまった。
「……」
卑弥呼の角度からは
しっかりとその流れ落ちる涙が見えてしまった。
(断った。断った。悟空はん、断った)
震える息を吐き出し、卑弥呼は座り込む。
(なんで断ったんやろ)
(他に、好きな子おるん?)
(それとも、もう…)
「盗み聞きたぁ…良い趣味してんじゃねーか?」
「ひっ?!」
顔をあげると意地の悪い笑みを浮かべる悟空がいた。片手に、チョコレート。
「盗み聞きちゃうもん!たまたま鉢合わせただけや!」
「…ふぅん。その割りには随分と前から居たよな?」
「……っ」
「くくっ…図星か?」
「うるっさい!」
ギロリと睨み付けると卑弥呼は教室へと駆けていった。
「……」
明らかに渡すタイミングを失った卑弥呼。このまま渡さずに一日を終えるか。
ごちゃごちゃと考えている内に放課後。
そして卑弥呼の足は正直に彼の教室へと向かっていた。
「悟空ー!」
甲高い声。卑弥呼は急いで壁に隠れる。べたりと引っ付いて笑顔を向けている。友人なのか、悟空の表情は堅くない。
聞かなくても分かる。彼女もまた自分と同じように気持ちをチョコに託している。
(…中2と高2…)
壁の向。馴れ馴れしく触れる女をただ羨んだ。卑弥呼は暑いものが零れそうになる瞼を押さえる。
先輩が立ち去ったのを確認すると卑弥呼は壁から一歩踏み出した。
「おう、卑弥呼」
膨らんだ鞄、手にぶら下がる不釣り合いな可愛らしい紙袋。その中身は言うまでもない。
卑弥呼は奥歯を噛み締める。
「凄い量、やな」
「…ああ、これ?」
紙袋を軽く持ち上げるとため息を吐く。そして仏頂面で言った。
「まじ重ぇ」
卑弥呼の胸の内でモヤモヤが広がっていく。
「…愛の重さやろ」
「うわ、怖ぇこと言うんじゃねぇ!」
「……」
悟空は荷物を床に置くと漁り始めた。
「お前チョコ好きだろ」
「う、うん」
「師匠と分けたとしても俺だけじゃこんな食えねぇからやるよ」
紙袋ごと、卑弥呼に突き出す。
「…せやかて、悟空はんの貰い物やん」
「俺がいーっつってんだろ。てか、こんなにいらねぇし」
「皆悟空はんを思って渡したものやで?」
「どこぞの誰かも分からねぇ奴だっていんだぜ」
「せやけど!好きやから一生懸命…」
「お前もさ、俺の身にもなってみろよ?」
「?」
「いきなり物貰ったり、好きとか言われたてもよ。はっきり言って、困んだろ?」
(ーーー。)
「そーゆーわけだから、これ…」
「…っ!」
卑弥呼は突き出されたチョコレートを叩き落とした。
「…は…?」
「…そんなん、いらん!!」
大きく怒鳴り声を上げる。
悟空は訳がわからず硬直。
「…こンの…っ阿呆が…」
そして鞄から取り出した小さい箱を投げつけた。
「いって?!」
見事顔面に命中し悟空は倒れ込んだ。
「悟空はんなんか、糖尿病で…死ねー!」
罵倒を置き土産に卑弥呼は走り去った。
【 チョコっとの愛を君に 】
「…お…女って…よくわかんねぇ…ッ」
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色んな意味で悟空最低やな笑