無N

□届かない
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【第八章】




あの人やろ、悟空はんの言うてた師匠。



アンタの言うてた通りや。

ほんまにべっぴんさんやったなぁ。
顔も声も、性格も。


師匠、必死やったで。
知らん言うても眼ぇが信じてなかった。

ウチが何か知ってるって思ったんやろな。


…うん、知ってたんやけど。
むっちゃ知ってたんやけど。

知ってるどころか仲間やもん。な。




けど、言わんかった。
この地に悟空はん居るから、どうせいつかは巡り合うだろうから。


…ううん、言わんかったんちゃう。
言えんかった。

ごめんな。



ウチ、子供ながらに悟空はんのこと
好きやったんや。


落ち込んでたり、怖い時、
茶化して然り気無く元気付けてくれたり

襲われたり、危ない目にあった時、
誰より速く助けにきてくれたり


そんな優しいとこが好きやったんや。


独りぼっちで浮いてたウチに
最初に話し掛けてきてくれたのは
他の誰でもなく、悟空はんやったんやで。

ほんま、嬉しかった。





せやから、
ウチ、


あの人に盗られたくなかった。


大きくなって、べっぴんさんなって、必ず振り向かせたるって…思ってたんやけどなぁ。



ウチ、気付いてしもうたんや。


届かへんて。



反骨精神の塊みたいなアンタが
ずーっと永い間、誰かに仕え続けてるなんて正直信じられんかったよ。


けど悟空はんが師匠の話をしてくれた時。
あない優しい表情出来るんやなって驚いた。そんで、悔しかった。

そない顔させる師匠に嫉妬した。


嘘やないんやって。
ほんまにずーっと仕えてるんやって。



しかも、悟空はんはそないなこと一言も言わんし寧ろ鬱陶しそうにしとったけど




悟空はん、師匠のこと、大好きなんやろ?



ウチ、アンタのこと好きやから
分かってしもうた。



師匠のこと
尊敬してて、心配で、大切で


死ぬほど愛しとる。






なあ悟空はん、

師匠もアンタのこと
ほんまは愛してんちゃうかな。



アンタは
師匠は俺のこと餓鬼扱いする
って落ちこんどったけどな、


勝手に逃げた人をわざわざ仙界から追いかけてくるなんて、そうそうないで。

そりゃ師匠やし。弟子の面倒みるのが当たり前かもしれんけど。


あの人のな、言動一つ一つが重いねん。本気やねん。


子供や思うとる弟子やったら、ちょっと自分の元からいなくなったいうくらいで


あない辛くて泣きそうな顔、せぇへんよ。

大好きだから、あないな顔なるんやろ。



ウチも恋する乙女やから、分かんねん。





せやから

師匠を見て認めてしもうた。



二人の間に ウチが入れる隙間なんて ない



ウチじゃ、駄目なんや。
他の女でも駄目なんや。




三蔵法師じゃあらへんと、
悟空はんには駄目なんや。

悟空はんじゃあらへんと、
三蔵法師には駄目なんや。









悟空はんに報せなあかん。
連れ戻しにきとるから逃げなって。


…けど、今アンタの顔みたら
ウチ泣いちゃうわ。











届かない





好きな人には幸せになってほしい


なんて思えへん。

だってウチ、子供やもん。




to be continue...

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