無N

□イノセント・リリー
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食欲、性欲、睡眠欲。

三大欲求と呼ばれるこれらに俺等は滅法弱い。妖魔だなんてそれっぽい言い方されてるけど、要は強欲な化け物。理性なんてあってないようだ。

俺の場合この三つ以外に強ぇ奴と殺り合うことも欲に入っているが、これはある意味“性欲”に部類される。

変な意味だと勘違いされそうだからここで一つ解説させてもらう。

そりゃ最初は俺だって性欲バリバリだったよ。去る者は追わず、来る者は拒まず。名を上げた強ぇ男に女は寄ってくるからな。毎度とっかえひっかえして楽しんでた。
…んだけどよ、まあ色々やらかして五行山に閉じ込められ、お師匠様の弟子になって天竺まで旅してる間にその欲は女から強者に移ったわけ。飛び散る血や肉片に胸は高鳴り腕も鳴るってな。

…つまり、俺の性欲とやらは女と強者を行ったり来たりしてる。


…今はどっちかって?…






「はっ、も、いやっ…!」
「嫌なら止めるぜ」
「…い、じわるを仰らないで…っあ」
「…けっ」


俺の上で喘ぐ女。
成る程俺の性欲、今は女に向いてるらしい。

こんな曖昧な言い方なのは俺自身よく分かんねーからだ。でも、ついこの前まで人界で面白ぇ人間共とドンパチ殺ってきたから恐らくローテーションで女なんだろ。


「あっ…あっ…悟空様っ!」
「……」


卑弥呼元気にしてっかなー。あの餓鬼とのやり取りは鬱陶しいっちゃ鬱陶しかったが、離れたら離れたでつまんねー。
助けに行ってやったら無理をすんじゃねーかと俺の心配をする様な結構可愛げのある奴だったし。

また一緒に旅すんのもいいかもな
なーんて考えてたら女が「私だけを見て」だってよ。面倒くせ。


「はあんっ…いい…!」


うねる腰。


…あー…。


俺の脳裏に浮かぶのはこんな淫乱で不潔な腰じゃねー。

白く透き通ってて、それでいて何故か神聖さを纏うあの人の腰。


(…違ぇ、)


腰を打つ速さを上げると女の長い髪が比例して四方八方散る。


(違ぇ。)


豊満な胸元まで伸びる髪が俺の内で短く補正される。肩上に跳ねる髪。吸収した光を茶色で跳ね返す明るい髪。


「…どいつもこいつも、同じ髪型、同じ化粧にしやがって、よ」
「…だって、」
「あ?」
「皆っ貴方に、あっ…抱いて…ほしっ」


はっ!
近頃の女には恥じらいってもんがねー。

こんながっついた女達なんか抱いたって満たされやしねぇよ。

(だったら何故俺はこいつらを抱く?)


「ああんっ…ごく、う!」
「気安く…呼ぶんじゃねぇ…っ」
「はあん!」


『悟空!』


(俺が、俺の名を、呼んでほしいのは)



「…ちっ」


俺は最奥に突き上げる。


「ああ!…もっと、もっと!」
「そーかいそーかい、とんだ淫乱だぜ」
「あああっ!!!」




俺が欲しいのは


(てめぇじゃねぇ)


こんな汚れたもんじゃなくて


(てめぇらじゃねぇ)


もっともっと、純粋で甘美で神聖で


(俺は、)


穢れ無き愛溢れる



「…お師匠様…!」



庭園に咲く百合に雨粒が光った。




【 イノセント・リリー 】



だけど

俺じゃきっと

その華を踏んじまう。





お題配布元『嬰*69』様
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