無N

□愛しのお師匠様2
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「いいよな、お前さん」
「…は?」

こちらに話しかけているも何処か遠くを見つめる孫一。悟空は片眉を上げた。

「ただの我が侭で逃げ出したのに…あんな美人に追いかけてもらえるんだからよ」
「…じゃあ代わってくれよ」
「へぇ」
「俺様は自由がいいんだ。そんなにお師匠様に追いかけられてーなら何時だって代わってやるぜ」

なんつー面してやがる。
孫一はふぅっと息を吐いた。



「悟空ぅー!」
「うきっ?!」

風をきって現れた三蔵。悟空は尻尾を張った。

「これはこれは!美しき法師さん…!」
「…あら孫一さんもいたの!こんにちは!」

(…か、悲しいぜこの反応)

一人落ち込む孫一だったが三蔵ににこりと笑いかけられると忽ち元気を取り戻す。

「貴女はいつ見ても華のように美しい…その輝きは宝玉ですら敵わないよ」
「あら、ありがとう!」

その手に鈍感な三蔵だったが孫一はめげない。次なる一手を出そうとする。

「おいタラシ!お師匠様口説いてんじゃねーよ」
「口説いてる?違うな。この女性を見てると浮かんでくるのさ、詞が。俺はそれを口から出してるだけ」
「…うっぜ!」

悟空が吐き捨てると三蔵がくるりと振り返る。

「悟空、乱暴なことは駄目よ?」
「…まだ何もしてないじゃないっすか」
「まだ?今も後もだめよっ」

ぐぐっと背伸びし、悟空の顔に自身の顔を近付けた。いつもならここで悟空が焦りを見せるのだが今は違った。いや、そんなこと感じてる暇がなかった。

孫一がこちらを見て気持ち悪い笑みを浮かべている。


「お師匠様!スカート!」
「え?」
「こ!れ!!」
「ひゃっ」

悟空は三蔵の短い服を押さえ込む。そしてその華奢な体を背後に隠し睨みつけると、孫一はあららと肩をすくめた。

「折角オイシイアングルだったのに。死ぬまでもう見れないだろうな、へへー」
「…ぶち殺すぞ…人の餓鬼が…!」

禍々しい殺気に流石の孫一も息を飲む。

(…こいつ、マジじゃねぇか)


「お師匠様!そういう短い服着んな!」
「これ?」
「そう!あれだ、旅の時着てたやつ、あれだけにして下さいよ!」
「あれだけ?!」
「あと、胸ぐら開いてんのも駄目!薄い生地のも駄目!」
「暑いよ悟空」
「なに言ってんすか!天竺着くまでに嫌って程砂漠は抜けてきたでしょ?!」
「…こ、怖い顔はだめ悟空…笑って?」
「笑いますよ!笑いますからお師匠様も約束守ってくれ!」

勢いに圧されて三蔵は頷いた。悟空はとりあえず自分の着ていた上衣を三蔵の腰に巻き付けると、孫一に振り返る。


「…お前、お師匠様の、見たんだろ」
「え?いや、ちょっと落ち着けよ」
「見たんだろ」

否定も肯定もしない。しかし、見たことは先程の会話で分かっている。悟空は如意棒を取り出した。

「おい…!」
「お師匠様は…お前らみたいな只の人間が軽々しく関わっていい御方じゃねぇ…」
「武器終えって!冗談だよ」
「…へぇ。冗談で言われちゃぁそれこそ黙ってらんねーんだよ…!?」
「…待てよ、俺が悪かったって!」
「当たり前ぇだろ!十中八九お前が悪ィわ!」
「ていうか、寧ろお前に同情してきてるし!」
「…同…は?」

ウキッ?と頭を傾げる。

「なんつーか…お前も大変だな、色々と」
「…」
「保護者みてぇ」
「……」

うるせぇ…と小さく呟くと鼻を啜る。その所作から悟空の苦労が滲み出ていて孫一はこの弟子猿を一層不憫に思ってしまった。


「とにかく!もうお師匠様に近づくなよ」
「…分かってないね」
「…あ?」
「俺だけ止めても無駄だぜ。星の数だけ女はいると言うが男だって同じさ」
「!」
「世の中には飢えた男がごまんといるんだ。…あんただってそうだろ?」

孫一は微笑む。だが悟空は頷かない。横暴で血の気の多いあの妖魔とは思えぬ澄んだ瞳で見返し、そして鼻で笑った。


「分かってねーのはお前だ」
「……」
「俺とこの人の“今まで”を知らない」



「そういう輩からお師匠様守るのが俺様の仕事なんだよ」



(…ああ、ここに惚れたのか。貴女は)


孫一は口角を上げた。




【 愛しのお師匠様2 】



「もう関わらないよ」
「…は?!」
「これからは俺も、そして他の飢えた男にもあのひとには触らせない」
「…め、珍しい」
「…文通くらいならいい?」
「ッいい訳あるかァ!!!」


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三蔵法師様、終盤でログアウト笑

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