novel

□はじめの一歩
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丁度角を曲がった所で何かと衝突した。
衝突したと言うよりも躓いた、と表現した方がいいかもしれない。
天井を眺めて歩いていたレノは小さく声を洩らすと、足元にぶつかった障害物を見下ろした。


「………」


二つの青い宝石がこちらを見上げていた。


(なんでこんな所に餓鬼が…)


少年は尻餅をついたまま無表情でレノを見つめる。白い肌に青い瞳はよく映えていた。

(小生意気な顔だぜ)

レノは溜め息を吐く。


「ちゃんと前見とけよ、と。危ねーだろ」

吐き捨てる様に言い放つ。
少年は表情を変えずにその上品そうな小さい口を開いた。

「天井を見ていた男に言われたくない」

冷たい声色。
レノは思いがけない言葉に眼を見開く。


「それと、わたしに命令するな」

(わ、わ、わたし〜?!)


面食らってしまった。歳が二桁いっているのかいないのかも分からぬ子供が偉そうに腕を組み、自分を見下しているのだ。


「………」

「な、なんだよ」

少年はぐいっとレノへ手を伸ばす。訳が分からず首を傾げていると溜め息をつかれた。

「手、」
「あ?!手…?」
「起き上がらせろ」
「あ、あぁ。そういうことかよ」

まるで上司の様な口調に何故かレノは素直に頷き、その小さな掌を握ると軽い体を起き上がらせた。

「…って自分で立てよ?!」

白いスーツについた埃を丁寧に払い怒鳴るレノをちらりと一瞥。襟を正すと言った。


「…君は…神羅の社員なのか?」
「そ、そうだよ!新人タークスだ!!」
「…そうか。タークスか」
「文句あんのかよ?!」
「…新人なら仕方ないが…」
「?!」
「神羅社員ならばそうスーツを着崩すな。ネクタイを結べ、シャツを入れろ。ガムなど噛むな、子供じゃ有るまい…」


気を付けたまえ。
そう付け加えると金髪を揺らしながら颯爽と去っていった。



「………」

レノは暫し口を開けたまま突っ立っていたが、はっと我に返ると顔を真っ赤にして唸り声をあげる。

「あの糞餓鬼ー!!!」


「レノ、」

「!!…ツォン、さん」

振り返ると世話役の先輩が立っていた。

「見回りに行くぞ」
「え、あ…はい」


レノは皺一つない背広を慌てて追いかけた。



「…どうした?」


今だ眉間に皺を寄せているルーキーを怪訝そうに見つめる。レノはうーんと唸り頭を掻いた。

「…いや…さっきすげぇ生意気な餓鬼と会ったんすよ」
「…子供がいたのか?」
「もっ超偉そうで!!なんであんな奴に俺が叱られなきゃいけないだよ、と!!」

クチャクチャと噛んでいたガムを膨らませると同時にチャイムが鳴り、エレベーターの扉が開いた。


「ーーー!!」


そこに立っていたのはこのビルの最上階に居座る男、プレジデント神羅。ツォンは慌ててレノを睨み付けた。一歩遅れて事態を把握したレノは膨らましたてのガムを飲み込む。

「社長、」
「あぁ、お前はタークスの…」
「はっ。こちらは新人のレノと申しまして…」
「ど、どうも…」
「ふん…」
「………」
「期待しておこう」

ニヤリと口角を上げるプレジデント。機嫌がよかったことにツォンは安堵するとレノの背中を押して先に外に出す。


「何階でしょうか」
「決まっておろう、最上階だ」
「すいません」

一番高くに位置するボタンを光らせると社長に頭を下げた。プレジデントは当たり前の様にエレベーター乗り込む。

「早く乗れ、ルーファウス」
「はい」

「……?」

高い声の主を探すとプレジデントの大きな体の後ろから小さな少年が現れた。


「ーーー?!」

レノはアイスブルーの瞳をこれでもかという程かっ広げる。


「ああ、ルーファウス様もいらしていたのですね」

自分の半分にも満たない小さな男に丁寧に頭を下げる先輩。

「ツォンか。久しぶりじゃないか」
「お元気そうで何よりです」
「そろそろこいつにも神羅の空気を味あわせておかんとな」

「レノ、こちらは社長のご子息であるルーファウス様だ」

レノはゆっくりと少年を見つめる。


「初めまして」

子供とは思えない社交染みた笑みを浮かべた。口元がひきつるレノ。先程のやりとりが壊れたビデオの様に何度も再生される。


「行くぞ」
「はい父さん」


ツォンは再び深く頭を下げると、ルーファウスと入れ違いでエレベーターから足を踏み出した。

阿呆面を噛ますレノの横に立つと二人を見守る。


「それではまた」
「いてっ!?」

ツォンによって強引に頭を下げられる。
解放されると同時に頭を上げると


「ーーー!!」


ペロッと赤い舌を出したルーファウスと目があった。
しかし直ぐにエレベーターの扉は閉まってしまった。



「………」
「ルーファウス様は非常に有望な方でな」
「………」
「いつかは俺達もあの人も元で働くことになる。次に会った時は失礼のないようにするんだぞ」
「………」
「さ、俺達も行くぞ」


レノはスーツの前を上まで閉めた。




【 はじめの一歩 】


「社長は昔から性格悪かったよな」
「お前は昔からだらしなかったな」
「…子供にあんな上目線な態度をとられたのも初めてだぞと」
「私もあんな乱暴でガサツな対応をされたのも初めてだった」
「…いやだって、あの時は…」
「なんだ?」
「…ごめんなさい」


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こんな出会いなら美味しい笑 御曹司という自覚が目覚めてきた生意気な頃

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