無N2

□走る雲
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蜀の猛者達の手が卑弥呼に触れる瞬間、
妲己は、あぁ全てが終わった
と静かに瞼を閉じた。

刹那、風を切る音と全身を鋭い風に包まれる感覚に襲われ驚き目を見開くと、兵士の塊に卑弥呼の姿はなかった。

目と鼻の先を通過したであろう何かを目で追う。


金色の雲が走っていた。


「ーー悟空!!!」


妲己が叫ぶと振り返りこそしなかったが、確かにその尻尾が返事をするように揺れた。

目で追えぬ速さに数秒遅れて気付いた太公望・劉備率いる蜀軍は、怒号と共に人拐いの悟空を追いかけるもあっという間に遥か彼方へ消えてしまった。


これでいい。
独りでに小さく頷きしゃがみこんだ妲己の脳裏には、まだ悟空の背中が写っている。

今まで感じたことがない程に、頼もしかった。



***



卑弥呼は恐る恐る目を開ける。

「………」

そして瞳だけを動かし、自分を支える男の顔を盗み見上げる。
いつもは愉しげに上がる口は堅く結ばれ、金色の瞳は遠くを射していた。

何故だか知らない人に感じて小さく身震いすると、それに気付いた悟空が腕の中の卑弥呼を見つめる。

「卑弥呼、」


小さく有難うと呟くと悟空は安心した様に、そして何時もの様に微笑んだ。


(あぁ、悟空はんや。ウチの知ってる、)


意識が覚醒した卑弥呼は悟空から離れようと腕を張る。

「もう平気」
「あ?」
「もう平気やから。一人で立てる」


悟空は不愉快そうに目を細める。

「足ガクガクな奴のどこが平気なんだよ」


卑弥呼は言い返せなかった。

遠呂智復活を阻止すべく立ち塞がった軍へではない。
この先の未来がただ怖かったのだ。


「…清盛の所、やろ」
「………」


悟空から返事はなかったが、卑弥呼は分かっていた。雲の向かう場所も、これから行われる事も。


復活儀式に必要不可欠である卑弥呼はもう逃げられない。
命を引換にする訳ではないことは分かっていても、幼い卑弥呼には未知なるものへの恐怖心を拭い去ることは出来なかった。


「いっそのこと、敵に捕まった方が…楽やったかもな」


自嘲気味に呟くと悟空の腕に力が籠る。


「お前、それ本気で言ってんのか」
「……?」
「捕まったらどうなるか、本当に分かってて言ってんのか」
「悟空はん…?」

「次にそんなくだらねぇことほざきやがったら許さねぇからな」


滅多にない怒りの声。
卑弥呼は責任を持たず安易な言葉を発した己を殴りたくなった。

しかし、言葉とは裏腹に悟空は腕に抱く卑弥呼の背中を優しく擦る。

全ては卑弥呼を大切に思っての言動なのだ。


「………」


恩義を返すべく誓った清盛に尽くしたいのは勿論のこと、その清盛に対する卑弥呼の心情も理解していた悟空は些か辛い立場にあった。

真っ先に卑弥呼を男の元へ連れていくのが今すべきことなのは分かっている。しかし正直なところ、怯える彼女を見ていると辛くて仕方がない。


できることならどこか遠くへ逃してやりたい。


叶わぬ私情に溜め息を吐くと卑弥呼の額を撫で上げた。

一連の優しい動作に、ついに卑弥呼は泣き出してしまった。


「…うっ…うぅ…」
「………」
「悟空…はん」
「おう」
「怖…い」
「うん」
「むっちゃ、怖い…ウチ」
「うん」

「戦も、清盛も、儀式も、遠呂智も…みんな、みんな…だいっきらいや…っ!」


卑弥呼が震える手で悟空の上着を握る。
辺りの景色を一瞥すると、悟空はその場にしゃがみこんだ。

近づいた金色の目。

真っ直ぐに見詰められ胸が熱くなった卑弥呼が視線を反らすのと、悟空が両腕で少女を抱き締めたのは同時だった。


「ーーー」

「心配すんな。何も怖くねぇ」
「……っ」
「敵兵なんてブッ飛ばしてやる。儀式のことならオッサンがうまくやってくれる」
「いやや、怖い、目ぇが…怖い!」
「…大丈夫だ。もしもお前の身が危なくなったら、例えオッサンだろうと遠呂智だろうと、絶対ぇ守ってやっからよ」
「!」

「約束する」


歯を見せて破顔した。


「俺も頑張るから、卑弥呼も頑張れよ」


声をあげて泣き出す卑弥呼に、筋斗雲の速度を落とし進めることだけが唯一悟空に出来ることだった。




【 走る雲 】



あの時の言葉と笑顔は
今でもウチを支えてる。


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ビビる卑弥呼を柄にもなく悟空が優しく慰めてたらいいと思うんだ。そんでもって見たことないその真面目な雰囲気にドキドキしてたらいいと思うんだ。つまりお調子者悟空の本気に妲己も卑弥呼も惚れればいいのさ!!((長い

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