無N2
□罪と罰と、そして愛
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「ごめんね、ごめんね、」
「うん」
「ごめんね、」
三蔵は何度も何度も水の滴る赤毛を撫で上げた。
「ごめんね、」
目を合わせず小さな返事だけを返す悟空の口端は赤黒く滲んでいる。それだけではない。彼の皮膚の所々に痛々しい程の引っ掻き傷が浮き出ていた。
三蔵は悟空を愛していた。愛しすぎていた。故に少しの隙もみるみる内に黒く深く広がってしまう。
悟空は三蔵を裏切ったことなど一度足りとも無いのにも係わらず。
今日も、女の助教授と二人っきりでいたのは書類纏めの手伝いをする為というごく普通の状況だった。
だが三蔵は悟空に手をあげた。叩いて、引っ掻いて。サイドテーブルに置かれたコップの水をかけたのも三蔵だった。
我に帰った時、彼女の愛する男は血だらけになっていた。
「俺は先輩が好きなんだ」
その言葉で漸く相手は何一つ嘘をついていないんだと理解する。迫りくる罪悪感、恐怖、愛情。
三蔵は壊れそうな顔で悟空を抱き締めた。
「ごめんね、ごめんね、ごめんね」
今回だけの話ではない。
講義で隣に座った女性と一言二言交わすことも、無論食事をすることも許さなかった。
傷付けることを嫌う三蔵は一度火がつくと歯止めが効かない。加減を知らないのだ。
だから普通では考えられない程の狂気を持ってして相手を傷付けてしまう。
そしてそれは、愛、故に。
それを十分に理解しているからこそ悟空は黙って暴力を受け入れていた。
青い学生時代、力でしか己を表現出来なかった彼にとって三蔵のソレは、小児が誤って親を怪我させる様なその程度の可愛いものに過ぎない。
だから悟空はどんなに信じてもらえなくても、どんなに傷を負わされても
何度だって三蔵を許してきた。
愛していたから。
「ごくう、」
「もういいよ。謝らないで」
「でも、私…」
「先輩は悪くないよ」
「ちがう、…だって…!…痛かったよね、ごめんね、ごめんね」
「痛くねーよ。先輩の心よりは、マシ」
「………」
「泣かないで」
「……ぅ…っ」
「不安にさせてごめんね」
小さな嗚咽を漏らす三蔵の細い肩を抱いてあやすように優しく囁くと、三蔵は何度も何度も小さく頭を横に振った。
「先輩、俺のこと好き?」
「…あいしてる」
「どんくらい?」
「…言葉、じゃ…言い、表せられない程」
「そっか。俺もね、先輩が俺を想ってくれてるのと同じ様に愛してるから」
「…うん。うん」
「嘘じゃないよ」
「うん」
青い瞳に溜まった涙を親指で拭ってやる。
そしてもう片手の親指を柔らかな唇にそっと添えると三蔵は甘噛みした。何時もの甘える仕草。
「私から離れちゃ、嫌よ」
「うん」
「ずっと一緒に、居てくれる…?独りぼっちにしない…?」
「先輩の後に、俺は死ぬよ」
「…そのあとも?」
「そのあとも。ずーっと。来世でも、先輩を探してみせるから」
三蔵は血の滲む悟空の口端にキスを落とした。
【 罪と罰と、そして愛 】
愛の前では 全て許されてしまう。
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うわぁぁ…ッ嫌だ、暗い!!DVなカップルにしたけど…やっぱだめだ!悟三はらぶらぶなのが一番…ッ!!←なら何故書いた。