無N2

□本日も晴天なり
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「…まったく…あの馬鹿は…ッ」


こめかみに青筋を浮かべた夏侯惇は城内を走り回っていた。毎度逃げ出す曹操を探し回るのはいつも彼の仕事なのだ。

「孟徳ー!!出てこい!」

曹操の隠れる所は夏侯惇ですら全く予想がつかない。厨房や廁は勿論、寝台の下や壺の中、酷い時は屋根にまで登ろうと試みたこともあった。(夏侯淵の射撃によって網で確保された)


「くそ…今日は一体どこに隠れた…?!」

部屋で曹操を見つけた場合はすぐに連絡しろと給仕には伝えているし、今までの経験からあり得そうな場所は全て探した、しかし殿の姿は見つからない。

小さく舌打ちをしたその直後。

カタンッ

「!!」

物音に目が光る。

「孟徳ぅ!そこかぁああ!!!」
「うおおっ?!」

鬼の形相で廊下を角を曲がると

「…典韋!」

そこにいたのは扉の前で固まる曹操の側近だった。


「お、驚かせないでくだせぇ!」
「すまん典韋。こんな所で何をしている」
「許チョを探してるんすよ」
「…許チョ?」
「えぇ。まぁ恐らく飯後の昼寝でもしてるんでしょうが…見当たらないもんで」
「お互い人探しか」
「…ん?」
「孟徳を見かけなかったか?」
「殿までいらっしゃらないんすか?」
「また逃げ出しおった」
「ははは、流石殿だ」

大口を開けて笑うとギロリと夏侯惇に睨まれ、大人しく口を閉じる。


「…どうせ同じ城内だ。許チョ探しのついでに手伝いますぜ!」
「おお、それは助かる…!」

夏侯惇は思わず手を叩いて喜ぶ。この馬鹿デカイ城内を探し回るのに一人ではなかなか捗らなかったのだ。


「どこまで行きましたか?」
「それが大部分は探したのだ。見てない部屋も給仕に頼んであるからな…」
「…庭は?」
「……」

典韋の顔を暫し見つめると夏侯惇は歩き出した。



「とりあえずこの園から手分けして探すぞ」
「へい!」

鮮やかな庭へ足を踏み入れると突然の日射しに目が眩む。成る程この気候なら庭に隠れていてもおかしくはない。
夏侯惇は最早仕事を全て投げ出して昼寝でもしたくなった。

「あっ」

典韋の声で我に返ると視線を移す。

「どうした」

急いで走り寄り尋ねると典韋は人差し指を口の前に出した。そして視線の先を追うと。


「…ぐがぁ…ぐごぉ…」
「…すぴー…」


木の根元に座り込んだ許チョと、その膨らんだ腹に頭を預けた曹操が気持ち良さそうに昼寝をしていた。


「…やっと見つけたと思えば…これか」

夏侯惇は盛大な溜め息と共に額を押さえて項垂れてしまった。反対に典韋はその微笑ましい光景に頬を緩ませる。

「ははは、平和だなー」
「まったく良い光景だな!」
「ほんとっすね!」
「…皮肉だ…っ」


典韋は二人に近づくとゆっくり許チョの隣に腰掛けて眠そうな目を瞬かせた。

「俺も許チョともう暫く寝やす」
「……」
「あ、殿を連行すんの手伝いましょうか?」
「…いや。もういい」
「え」


夏侯惇は曹操に近づく。

「孟徳の寝顔を見たら全てが馬鹿らしく感じてきた」

起こさぬように曹操の鼻を掴んだ。

「…ふがっ」
「ふっ。間抜けな面しやがって…」
「殿のこんな顔、見れんのは俺達だけだと思うと誇らしいっすね」
「…ほ、誇らしいか?」
「はい!」

にこりと笑った典韋。
夏侯惇はもう一度曹操の顔を覗き込むと軽く微笑む。そしてゆっくりと隣に腰かけた。


「お、珍しい!」
「…たまにはな。だが少しの休息だ、叩き起こしたら縛り上げて徹夜させてやる」
「おっかね〜」


「……」


木の幹越しに伝わってくる巨漢の側近と従兄弟の寝息。少し遅れてもう一人の大きな寝息を耳に入れると、夏侯惇は瞼をおろした。




【 本日も晴天なり 】



「…あ!おーい見つけたぜー!」
「いたか?!」
「殿に惇兄、典韋に許チョまで…全員一緒に夢ん中だ」
「…殿や側近共はまだしも…将軍までっ」
「はっはっは!確かにこの天気じゃ眠たくなるわな!俺も寝ようかな、司馬懿もどうだ?」
「ば、馬鹿めがっ!」

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