赤い光
□6時間目
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『へー、祇園って奥に入るとこんなに人気ないんだ』
石畳を歩き、途中の甘味屋で少し寄り道をした後神崎さんに連れて来られたのは路地裏を渡った先だった。
人気も無く、けれど広くもなく狭くもないこの場所は神崎さんが言うように暗殺に適してると言える。
「流石神崎さん、下調べカンペキ!」
「じゃ、ここで決行に決めよっか」
そうね、と口に出そうとした時。三人──いや、四人分の息遣いを耳が捉える。それと同時に舐るような視線。
『……ちっ』
思わず舌打ちしたくなるような素人の殺気に不愉快だと顔を顰め、近くにいたカエデの腕を引いて背後に隠す。
数秒も経たない頃には最早神経をとがらせる必要の無いほどに響き渡る靴音が全員の耳に届いた。
「ホントうってつけだ。
なんでこんな拉致りにやすい場所歩くかねぇ」
「……何、お兄さん等?
観光が目的っぽくないんだけど」
守らなければならない人数は渚、奥田さん、神崎さん、カエデの五人。
カルマは必要ないだろうし、杉野も自力で守ってもらわねば困る。
それにカルマの事だ、自ら突っ走ってくれるだろう。
『カエデ、あんまり私から離れないで』
「う、うん……!」
小声でそう呼び掛け、頷いたのを確認してから不良達に目線をやる。
口角をあげ、まさに自分達が圧倒的有利な立場に立っているのだと愚かにも確信しているその笑顔。馬鹿で助かった。
「男に用はねー、女置いておうち帰んな」
そう男が声を発した途端、カルマが動く。
顎を下から掴まれ、そのまま力の限り口を強制的に閉められた男。
あれは思い切り舌を噛み、更に顎も外れただろう。そして追い討ちに目潰しをしたあとは容赦なく後頭部を近くにあった電柱へ叩きつけた。
……あぁー、痛そう
──あれ、
ふとした違和感。最初に聞こえていた息遣いは、四人。
……倒れているのも含め、今は三人。
「ホラね、渚君。
目撃者いないとこならケンカしても問題ないっしょ」
……あと、一人は?
『カルマッ!!』
もう一人が鉄パイプを振り翳す姿を視界の端に入れながら、カルマの腕を引いて自分の中に隠す。
それと同時に鈍い音が辺りに響き、後頭部の痛みを感じる暇も無く、意識は簡単に飛んだ。