短編

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「もう帰ったと思ってたよ。」

平静を装いながら接する。

「いやー、ちょっと忘れ物しちゃって。あ、あったー。数学のノート!!」

「あー、そう言えば明日数学の小テストあったっけ。」

「あったっけってあなたね…。ま、悠太は余裕でしょうが私は必死にやらなきゃヤバイんですー。」

苦笑した顔や拗ねた顔でさえ、君のする仕草が全て愛しい。

「凛は頑張って偉いね。」

「えへへ。悠太は優しいなぁ。そりゃモテるわ。」

ピクリ、凛の何気ない言葉に反応してしまう。

「…俺は、優しくなんかないよ。」

思わずぽつりと呟く。

「優しいよー。さっきだって、告白の断り方もすごい優しかったし!!」

ドキリとする心臓。

「あれは…」

ああ言っとけば、すぐにあきらめてくれるし。

それに、俺は凛のことしか考えられないから。

そう言おうとした言葉を飲み込む。

こんなことを言って凛に嫌われたくない。

「悠太?」

凛が不思議そうな顔をして俺の顔を覗きこんでくる。

「俺、好きな人いるんだ。」

俺は、臆病者だ。

自分のことしか考えていない最低な奴だ。

「え!?そうなんだ!!悠太にも好きな人が…!」

そうかそうかと言いながら、応援するよ!と笑顔でこちらを見てきた凛。

そんな凛を見て、心を痛める資格は俺には無い。

「凛。」

「ん??」

でも、今だけは、少しだけ俺にも、こんな最低な俺にもチャンスを下さい。

「俺の好きな人は…」

ごくりと唾を飲み込む。

心臓がドクドク鳴っているのが自分でも分かる。

キョトンとした顔の凛を見つめる。

「……凛、」

ガラリ。

急に教室の扉が開くことにより、俺の言葉がかき消される。

「凛まだー?遅いよー。」

「祐希!ごめんね!見つかったから!!」

「もう。あれ、悠太?」

「あ、そうそう、今ね。悠太の好きな人教えてもらうところだったんだよー。」

「ちょっ、凛。」

「へー、悠太の好きな人、ね。」

じっと祐希に見つめられ、なんだか心の中を見透かされたような気がして、目をそらす。

「ま、いっか。凛帰ろ。」

「はーい。悠太も一緒に帰ろ!」

凛が俺に笑顔で言ってくる。

「ごめん。まだ少し用事があるから先に帰ってて。」

「そっかー。じゃあまた明日ねー。」

「うん、また明日。」

そう言うと、凛と祐希は教室から出ていった。

再び静かになった教室で、一人立ち尽くし、自嘲の笑みを浮かべる。

「俺の気持ちが届くはずなんてないのに。」

自分で言っておいて虚しくなる。

だって凛は、俺の好きな人は、












祐希の、俺の双子の弟の彼女なのだから。

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