短編

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「スペル、間違ってる。」

「え!」

「そこ、全部違う。」

「うぇっ!」

「あんた馬鹿?」

「…ごめんなさい。」

さっきから、こんな会話ばっかりだ。

越前くんには、優しさのやの字も感じられない。

「もうちょっと優しく教えてくれても…。」

「無理。雨宮が馬鹿すぎだから。」

「ぐっ!…もういいよ。後で周助お兄ちゃんに教えてもらうから。」

私は思いっきり拗ねて、教科書などを鞄にしまう。

「…不二先輩?」

なんとなく、越前くんの声のトーンが落ちた気がした。

「うん、周助お兄ちゃんの方が、越前くんより優しく教えてくれるもん。」

本当は越前くんに優しく教えて欲しかったけど。

「ふーん、雨宮って、彼氏の俺より優しい不二先輩の方が好きなの?」

「…優しくない越前くんよりは好きだよ。」

なんだか、後に引けなくなってきた。

私はドアの所まで行くと、開けようと扉に手を掛けた。

すると、

「なら、行かせない。」

ダンッ!

「わっ!」

越前くんの呟きが聞こえたと思うと、越前くんは扉に手を置いて、私を動けなくした。

「え、越前く、」

「彼氏は俺でしょ。なんで不二先輩の方が好きとか言うの。」

「だって、」

「だってじゃない。」

そう私の言葉を遮った越前くんはさらに体を私に近付けてきた。

後ろにいる越前くんの息遣いまでが聞こえる。

「越前くん、近、」

「俺のことも名前で呼んでよ。」

「ヒャ…!」

耳元で囁かれた声にビクッとしてしまう。

「…ふーん、耳、弱いんだ。」

「っ!」

足に力が入らない。

「俺のこと、すごい好きな癖に。…凛。」

ガクッ。

遂に、床に座り込んでしまった。

すると、越前くんが私の前にしゃがみこんで目線を合わせた。

「まだまだだね。凛が俺に勝てるわけないでしょ。」

「越前くんのバカ…。」

涙目で越前くんを睨む。

「リョーマ、でしょ、凛。」

口角を少し上げて、越前くんが薄く笑った。

「っ!意地悪…、でも…、大好き。リョーマ。」

俯きながら言うと、

「良くできました。」

と頭を、越ぜ、いや、リョーマが撫でてきた。

「っ!リョーマ!」

「!ちょっ、凛!」

ガバッとリョーマに抱き着くと、勢いがありすぎたのか、一緒に後ろに倒れてしまったが、気にしない。

ギューとリョーマに抱き着く。

「はぁ、まだまだだね。」

私は、そんな彼氏が大好きです!

(凛?)
(スースー。)
(寝てる…、のんきな顔して。この体制のままいないといけないのか…。)
((俺の理性、頑張れ。))

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