あなたと一緒に。
□19
1ページ/1ページ
「あ…。」
ふすまを開けると、すごく懐かしい眺めが広がっていた。
その茶室の真ん中に、見知った人物が悠然とした様子でたたずんでいた。
「…十先生。」
お兄さんがその人物の名前を呼ぶ。
すると十先生は、ゆっくりとこちらを振り向いた。
「ご無沙汰してます。」
そう言って、ペコリと私は礼をする。
「……そろそろ来るのではないかと思ってましたよ。」
私をじっと見つめながら静かに話す十先生。
「お二人は、お知り合いなんですか?」
お兄さんが尋ねてくる。
「はい。椎名さんのお母様が私のお茶の先生だったんですよ。…すごく、素晴らしい方でした。」
「……。」
私はそんな先生から、思わず目を反らす。
「あの…。」
「十先生!今日の和菓子はもう準備してよろしいですか?」
お兄さんが何かを言いかけたところで、茶室の奥から着物を着た生徒が出てきた。
「春。」
「あ、悠太くん!遅いですよー。」
もー、と頬を膨らますその生徒は、女の子ではないかと間違えてしまうくらい、可愛らしい男子生徒でした。
(着物が男物じゃなかったら分かんなかった…。)
「…あれ、あなたは今朝の…。」
私の方に気付いた可愛らしい男子生徒は、驚いたように見つめてくる。
(あれ、今朝会ったっけ?)
うーん、と首を傾げるが思い出せない。
「あ、椎名さん。この子は、俺や祐希や要の幼馴染みの、松岡春くんです。」
私の様子に気付いたお兄さんが紹介してくれる。
「初めまして、椎名千秋です。あなたが、塚原くんの言ってたもう一人の幼馴染みさんなんですね。よろしくお願いします。」
挨拶をして、ペコリと頭を下げる。
「あ、ご丁寧にありがとうございます!悠太くんたちの幼馴染みの、松岡春です!こちらこそ、よろしくお願いしますね。」
可愛らしい笑顔を添えて、松岡くんが挨拶を返してくれました。
「椎名さんは、茶道部に見学に来てくれたんですか?」
「はい、一応。…十先生、よろしいですか?」
松岡くんの質問に答えてから、十先生の方を向いて尋ねる。
「もちろんです。ゆっくり見学していってくれて構いませんよ。後、松岡くんは、和菓子の準備をしてしまって大丈夫です。もうすぐ他の部員たちも来る頃ですから。」
十先生が、私と松岡くんに、微笑みながら答えた。
「ありがとうございます。」
「分かりました!」
私と松岡くんは各々返事をしてから、顔を見合わせて微笑んだ。