大ヒロ 1(1992〜)

□自覚
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出会ってからの数ヶ月。ヒロはどんな親しい友人より近くにいた。

弟のようにほっとけなくて。
でも先生のように知らない世界を教えてくれた。

家族よりずっと密な時間を共にして。
恋人のように知らない時間を知りたいと思った。

気づいたら僕の心はヒロのことで一杯になっていた。


***


「疲れたぁ〜」

一日のノルマを終えて、ほっと肩の力を抜くとヒロはソファに倒れ込んだ。

「お腹すいた…」

クッションを抱えて不機嫌そうに呟く。
そのふてくされた顔が可愛くて、僕は癒される。

「何か食べに行こっか?それとも早く帰りたい?」
「行く!!」

哲生さんの言葉にヒロは起き上がり、今度はぱっと瞳を輝かせる。

いつもいつも、表情がくるくる変わる。
まだ見たことない顔を君はいくつ持ってるの?

「大ちゃんも行くよね?」
「…僕はいいよ。ヒロだけ行っておいで」
「なんで?大ちゃんも行こうよ」

また急に顔を曇らせるヒロに僕は言葉を選んでしまう。

「まだやりたいことあるから…それにそんなにお腹すいてないし」
「そんなこと言って、大ちゃんお昼もちゃんと食べてなかったよ?」

意外な彼の言葉に、どう返していいか迷っているとドアの前でアベちゃんが振り返る。

「ヒロ何やってんのー?大ちゃん行かないならほっといて行こうよー」

さっさと帰り支度をしていたアベちゃんに呆れながらも、内心ほっとした僕はその言葉にのっかる。

「ほらほら。早く行かないとおいてかれるよ。僕のことはいいから」

何か納得してないようなヒロをスタジオから追い出す。

「…じゃあ、大ちゃんムリしちゃダメだよ。後からでも来れたら来てね」

閉まりかけたドアの隙間でヒロが言う。
僕は頷いて扉を閉めた。



一人になって大きく溜息をつく。
ヒロは気づいてたんだ…。

食欲がないのも無理をしすぎなのも自覚していた。
でもそれをヒロに指摘されたら、どう答えていいか僕にはわからなかった。

なぜ体に無理をさせてまで頑張らなければいけないのか、僕にもよくわからない。

ヒロのことが気になって、もっともっと知りたくて堪らない。

この感情を何と呼ぶべきか、自分でもわからずにいた。



ノックの音に振り返る。

返事をするとドアを開けてヒロが顔を覗かせた。

「どうしたの?みんなとご飯行ったんじゃなかったの?」
「行ったよ。先に帰ってきたけど」

言われて時計を見ると、また大分時間が過ぎていた。

「よかったの?先に出てきちゃって」
「大ちゃんこそまたこんな遅くまで」

ヒロは少し怒っているようだった。

「そうだね、もう少ししたら帰るから」
「オレも残るよ」
「ヒロ?」

なんで?

「ジャマしないから。大ちゃんのこと待ってていい?」

少し首を傾げてこっちを伺う。
何かお願いするときのヒロの癖だ。

そんな顔で見られたら断ることなんてできないのはきっと僕だけじゃない。

いつもはカッコイイのに、こういう表情はとても可愛らしいなぁと思う。
ヒロは自覚してるのだろうか。




 
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