お兄ちゃん
□お兄ちゃんの手
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横向きに寝返りを打って、枕で涙を拭いていたら、ドアに軽いノックがあった。
「夏芽、メシ。軽いものだけ持ってきたから食え」
ドアを開けると言われなかったことに一瞬首をかしげて、すぐに飛び起きた。
「持ってきた」って言ってた。
多分、両手ふさがってるんだろうって思って携帯をベッドに放って、スリッパを履いてドアに駆け寄る。
「……その勢いで来られたら零すだろ」
呆れたようなお兄ちゃんの声が降って来て顔を上げると、片手で持てるサイズのお盆を高く上げてドアから避けた状態でお兄ちゃんが立ってた。
「……あ、うん……」
すぐに俯いてお盆を受け取ろうと手を伸ばしたら、ふわふわ卵のおかゆとお茶の載ったお盆はすいっと私の手を避けた。
不思議に思ってお兄ちゃんの顔を見ると、片眉上げて私を見てる。
「残すなよ」
お盆を渡される時、一言だけ落とされた台詞に、心配をかけてることを感じてまた目頭が熱くなる。
どうしてそんなに優しいんだろう。
冷たくしてくれれば、せめて無関心でいてくれれば、こんなに好きにならずに済んだかもしれないのに。
閉まったドアの向こうで、お兄ちゃんが自分の部屋に入る音が聞こえた。
部屋の中央のテーブルにそれを置いて、添えられたレンゲでおかゆを掬う。
吹いて冷ましながら、また涙が止まらない。
泣きながら食べたおかゆは、あまり食欲の無かった私の身体にもとても優しくて、温かさがじんわり沁みた。