お兄ちゃん
□佐伯冬磨
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「いえ、謝らないで下さい、困らせたのはあたしなんだし、解ってましたから。だって翌日でいいって言われたってことは、期待しちゃいけないんだろうって。早く諦めさせようとしてくれてるんだって……うん、解ってたんです」
泣かれなくてよかったと思いながら帰宅を促すタイミングを窺おうとした時、その質問は投げかけられた。
「夏芽は……夏芽は、先輩に好きな人がいること、知ってるんですか?」
「言ってないよ。妹と恋愛話する男ってキモイだろ」
笑いを混ぜた表情で答えると、紘子という子は少し笑って、鞄を肩にかけ直した。
「……優しいんですね」
女の勘は侮れないと思うのはこんな時だ。
恐らく、今の言葉に含まれたのは純粋な皮肉と嫉妬だろう。
賛辞でないことが小学生でも解る声音。
気付かれているのかもしれないと思ったが、これ以上何を言う気もないし、諦めてくれるならどんな理由でも構わない。
「でもそれって卑怯ですよね」
目の前で笑っていた女の子が、いつの間にかオンナの顔になっていて、俺は身構えた。
「俺、計算高い子嫌いってさっき言ったよね」
「それって、その計算から逃れられないって解ってるからですか?」