お兄ちゃん
□佐藤雄基
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そこに軽い足音がして、国公立理系受験組、特に野郎ばかりの3−A−βにおける貴重品・女子が入ってきた。
しかも余裕で可愛い部類に入る、背中までの黒髪がきれいな「貴重品」だ。
その「貴重品」が、一瞬躊躇った後に佐伯の前に走りこんだのを見てクラス中から溜息が漏れたが、俺は3年間佐伯と過ごす間に、こんな場面を数えるのも阿呆らしくなるほど見てきたからもう慣れた。
「貴重品」はすべからく佐伯冬磨に引き寄せられる、という定義がこの世には存在するのだ。
「佐伯、俺ら先に行ってるから。遅れんなよー」
多分告白の呼び出しか、告白そのものだろうと思った俺は、βのやつらを促して先に廊下に出ようとした。
αのやつらは英語の演習だかなんだかでA・B―α合同の授業らしく、もう移動を終えていて教室の中にはA―βしかいない。
遅れるくらいなら来るなーとか、遅れるような何をする気だとか、クラスメイトの下世話な野次に、ややびっくりした感じでこっちを見ている「貴重品」。
……はて、どこかで会ったことがあるような、よく知っているようなこの造形。