11/21の日記

00:17
かりん(唯一の恋)
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 彼はいつも突然だ。
 突然の来訪。突然の贈り物。
 理由を問い質すと、「ホワイトデーだから」と素っ気なく答えた。
 一目で高級品と分かる菓子。
 バレンタインデーに贈った栄養剤の礼にしては高過ぎる、と思っていると。
「ミンネの証が欲しい」
 短く言った。
「済みません、聞いた事もないアイテムなので、作れません」
「そうか」
 また短く答えて、アトリエを出て行った。

「よっ、エリー。工房へ行く手間が省けたぜ。ほらよ」
 今日も今日とて門番をしているダグラスが、綺麗に包装された包みを投げて寄越す。
「わっ、とっ、ありがとう、ダグラス!」
「ほれ、中に用があるんだろ? さっさと入れよ」
「うん! あっ、そうだ」
「あ?」
「ミンネの証って、知ってる?」
 その言葉に、ダグラスが思わず噴いた。
「どこでそれを知ったんだ!? 俺達しか知らないはずなのに!」
「えっ、そんな高級なアイテムだったの?」
 そしてエリーの返答に頭を抱えてしゃがみ込む。
「お前なぁ……! ミンネの証っつったら、高級アイテムなんか足元にも及ばねぇんだぞ! 誰がそんな物、要求したんだ?」
「えっ……えっと……言っていいのかなぁ……?」
「言っちまえ」
「エンデルク様」
「「「「「何ィッ!!」」」」」
 驚いたのはダグラスだけではない。
 たまたま通り掛かった騎士や、警備の騎士達も、駆け寄って来る。
「隊長が『ミンネの証をくれ』って言ったの?」
「う、うん……」
「で? で? 何て言ったの? 何て言ったの?」
「『聞いた事もないアイテムなので作れません』ですけど?」
「「「「「隊長が、フラれた……ッ!」」」」」
「どどどどどうしてそうなるのーッ!? ミンネの証って何ー!?」
「これは」
「もしかして」
「もしかすると……?」
 騎士達が何やら集まって、作戦を練り始める。
 ややあって、どうやら纏まったらしい。
「隊長って今どこ?」
「ショックで引き篭ってンじゃね?」
「連れて来いよ」
「俺ヤダよ。絶対とばっちり食らうもん」
「大丈夫だって、『エリーが来た』って言やぁ、すっ飛んで来らぁ」
「「「「ダグラス、任せた!」」」」
「俺かよ!!」
 何故かエンデルクを連れて来る事と、その役目を言い出しっぺのダグラスが受ける事になった様だ。
 渋々と言う感じで、先輩騎士に門番を任せ、彼は王宮内へと急ぐ。
 エリーはそんな彼を、唖然としたまま見送った。

 暫くして、ダグラスは帰って来た。
 エンデルクに首根っこを掴まれて。
「他の者に任せられなかったのか?」
「ずびばぜん」
「未熟者め」
「ぐるじいでず」
 ずるずると引きずられ、可哀相なくらいしょげている。
 しこたま叱られたらしい。
 騎士達はそんな戦友を、エンデルクから奪い取って慰めた。
「それで? 何の用だ?」
「えっ? あっ、あのっ、あのっ」
「隊長、顔。顔怖いッスよ!」
「そんなに睨んだらエリーちゃん泣いちゃうじゃないですか!」
 騎士達の反論にも怯む事なく、エンデルクはいつもの冷徹な眼差しをエリーに投げる。
 瞳にはもう、あの優しい炎は見られない。
 それがどんな言葉よりも辛い。
「泣かせたー!」
「泣かせたー!」
「私の所為なのか?」
「「「「「他に誰が?」」」」」
 騎士達がエンデルクを責め立てる声も、遠く聞こえる。
 すぐ目の前にいるはずなのに、彼との間には、冷たい壁がこしらえてあるかの様だ。
「っつーか、隊長。ミンネの証って全然一般的じゃないんですよ?」
「……何?」
「王宮に引き篭ってるからわからないかも知れませんけど」
「伝わるのって、貴族か騎士だけなんス」
「そうなのか?」
「「「「「そうです」」」」」
「そうなのか……」
 どこか安心したような、低い声。
 続いて大きな温もりに包まれた。
「泣くな。お前の所為では無い。私の無知を、許して欲しい……」
 優しくて優しくて、今度は嬉しさが込み上げる。
 エリーが落ち着くまで待って、彼は離れた。
 一歩下がり、優雅に片膝を着いてエリーの手を取る。
「ミンネの証は愛の証。元の所有者に言葉を、行動を、カラダを、命を、そして愛を。騎士の全てを捧げる証。肌に近ければ近い程、良いとされる。……迷惑で無ければ、ミンネの証を、私に授けて欲しい……」
 彼の言葉が、ゆっくりと全身に染み渡る。
 公衆の面前での、愛の告白。
 誰よりも恥ずかしいはずのエンデルクは、崇高でさも当たり前の様に振る舞っている。
 それが尚更恥ずかしい。
「騎士は、生涯ただ一人の女性を愛する。例え証が無くとも、私はずっとお前を愛する」
 追い撃ちの様に言われ、耳まで熱い血が駆け巡る。
 彼の情熱に焼かれてしまいそう。

 一度離れた手は、再び重なり合う。
 緑のイヤリングが証となった瞬間だ。


 ホワイトデーに使おうかと思っていたネタです。

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