おまけ

□ヤード家の1日
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 朝3時。
 早番のメイドや執事が起きる。料理の仕込みをしたり、食器の準備をしたり、大忙しだ。
 時々、飼い猫のエルが起き出し、餌をねだって来る。餌を少し食べさせ、相手をしてやり、取り敢えず寝かせる。
 モーニングティーの用意もする。
 届いた新聞にアイロンをかけ、インクを乾かすのも仕事。
 朝4時。
 主人を起こすのは、執事のセイヴァーだ。主人にモーニングティーを運び、飲んでいる隙にエルを少し可愛がる。
 お嬢様の方は、メイドのウェンディが起こす。が、大体「あと5ふ〜ん」などと言い、素直には起きない。
 モーニングティーを飲み終わった主人が、お嬢様を起こす。
 一発で起きるお嬢様。流石は主人である。
 父娘揃って朝食を済ませる。どちらも割と早食いだ。
 朝4時半。
 馬を用意し、主人とお嬢様をお見送りする。
 その後、食事の後片付けと、次の食事の支度をする。仮眠を取ることもある。
 朝6時。
 女主人とご子息、雇っている妖精たちを起こす。ついでにエルが起きる。
 もちろん、彼らにもモーニングティーを出す。
 彼らがまったりしている間に、エルは食事と排泄を済ませる。専用の世話係がいるものの、何故かエルはセイヴァーにべったり。セイヴァーもエルにべったり。
 朝6時半。
 賑やかな朝食が行われる。彼らもやはり早食いな方だ。
 特に、依頼が詰まっていると、軽く食べるだけで終わらせることもある。
 今日はどうやら、まだ余裕があるらしい。
 朝7時。
 召使たちが朝礼をする。各リーダーが、抱負や作業内容を確認。召使たちにとって大切な挨拶用語を、大きな声で復唱する。
 そして、各々の仕事に就く。
 朝8時。
 各部屋の手入れが行われる。埃なんて有り得ない。
 ……錬金室を除いて。
 一番忙しいのは、フットマンと呼ばれる召使だ。
 彼らが大きな家具を動かし、メイドがその裏を掃除しやすいようにする。終わったら、当然戻す。シャンデリアを掃除する。屋敷に届いた、大量の食糧を運搬する。廃棄物を指定場所に廃棄する。
 屋敷でトラブルが起きたり、思わぬ訪問者が来ると、主人の許へ全力疾走する。
 体の弱いご子息が城へ向かう際は、馬車の横を走る。馬車の転覆や事故を、未然に防ぐためだ。城が近付くと先行して、ご子息が降りる準備をする。
 驚異の身体能力がなければ務まらない、厳しい職だ。それでも彼らは口々に言う。
「御主人様よりは、まだましですから」
 と。
 昼11時。
 メイドが洗濯や、銀製品の手入れを終える。代わりに、食事の準備が始まる。
 執事は、主人たちが使う銀食器を、綺麗に洗って磨き上げる。
 エルは散歩を終え、遺失物化する。落ちているところは、大体大理石の床。冷たくて気持ちいいらしい。時々、玄関前で力尽きることも。
 世話係が、エルを寝床へ運ぶ。
 昼12時。
 女主人とご子息、妖精たちの昼食。
 早番の召使たちは、仕事から解放される。
 昼1時。
 屋敷内で爆発が起こる。
 フットマンより先に到着するのは、大抵セイヴァーだ。
 冷静に状況を把握し、部下たちに的確な指示を与える。
 爆発の原因は、調合か姉弟喧嘩のどちらか。
 因みに昨日は、お嬢様のちょっとした出来心。ご子息が雇う妖精たちの名札を、素敵なまでにシャッフル。キレたご子息が、爆弾を使用した。
 事後処理を華麗に熟し、昼2時。
 恐らく最もまったりしている時間だろう。
 起きたエルの相手もする。
 が、やっぱりエルはセイヴァーにべったりである。
 3時のおやつ。
 甘い香りに誘われて、召使たちがフラフラと食堂に集まる。
 調合中の錬金術士に、甘い甘い差し入れをする。
 夕方4時。
 干した洗濯物を取り込む。
 屋敷内を徘徊する、生きてるゴミ箱を捕獲。中身を確認し、溜まっていたら、指定場所へ案内する。
 エルの食事と排泄の面倒を見る。
 夕方5時。
 夕食の支度をする。
 たまにお嬢様が帰宅。その辺の召使を捕まえて、食べたいメニューを言い付ける。エルにちょっかいを出して、威嚇されることもしばしば。
 エルはエルで、膨れた尻尾を、わざわざ見せにセイヴァーを襲撃する。
 夜6時。
 夕食の時間。
 セイヴァーはエルと共に、昼寝を嗜む。寝相はとても良い。
 彼に憧れるメイドが、物影からこっそり見守る。何かトラブルがあった際の、寝起きの良さを観察するのは、まだ理解できる方だ。これ以上は、彼女の品格を落しかねないので、言えないが。
 夜8時。
 ご子息が就寝。
 雇っている妖精たちも、別室で就寝。
 夜10時。
 主人が帰宅。
 夕食を済ませ、夫婦水入らずの時を過ごす。
 夫婦が寝る時間は不明だし、召使たちは知ろうともしない。
 分かっていることは、主人が非常に精力的であること。女主人も、健気に愛を返していること。
 こうして、ヤード家の1日は、比較的平和に更けてゆく。
「待てぇ、ヘクトル〜!」
「お前が待ちなさい、レティシア!」
「うわぁい! 何で父上が追い掛けて来るんですか!」
 そしてこんな日も、あったりなかったり。

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